本研究の最終目的は、低温成長希釈ビスマス(Bi)半導体を用いた、光通信帯光源が利用可能なテラヘルツ(THz)波発生検出用光伝導アンテナ(PCA)を実現することである。当該年度は、低温成長希釈Bi半導体の分子線エピタキシャル(MBE)成長条件の最適化に当たり、従来PCA用の候補材料として比較的よく取り組まれてきた低温成長InGaAsの結晶状態をまず明らかにした。III-III-V族GaAs系半導体である低温成長InGaAsとIII-V-V族GaAs系半導体の低温成長希釈Bi半導体の結晶状態の成長条件依存性から、今後の低温成長希釈Bi半導体の最適成長条件の指針を得た。
X線回折(XRD)法、透過電子顕微鏡(TEM)観察およびラザフォード後方散乱法(RBS)を用いて明らかにしたInP基板上の低温成長InGaAsの結晶状態の成長温度依存性は、220℃で成長したものが単結晶的、200℃で成長したものが多結晶的、180℃および130℃で成長したものがアモルファスという結果であった。また、この180℃以下で堆積した低温成長InGaAsに対し400℃以上で熱処理を行うと、InGaAs層がInP基板上で結晶化することが明らかになった。
従来の低温成長InGaAsからなるPCAが180℃以下で堆積したものであることが多いことから、熱処理によるアモルファス状態からの結晶化が、GaAs系混晶半導体で構成されたPCAのTHz波発生検出の鍵となる可能性がある。今後、この知見を基に、低温成長Bi系半導体の最適成長条件の探索においては、特に成長温度を180℃以下の低温領域にする等して従来とは異なったアプローチをする必要性が明らかになった。
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