本研究では,動的システムが結合したネットワークに対し,入力時系列ないし観測時系列のデータを利用して,その内部構造やグラフ特徴量を同定・推定する手法の開発を進めてきた.ネットワークを構成するサブシステムの状態量を中央集権的にすべて同時に測定あるいは操作することは,システムの次元が大きくなるにつれて難しくなるため,センサ数やアクチュエータ数が相対的に少ない状況を想定する必要がある. 特に,非線形要素が含まれるネットワークの構造同定は挑戦的な課題であり,非線形時系列解析方法等を検討する必要があった.平成29年度は,前年度の研究を拡張して,数理モデルが未知の入力付き非線形システムを対象に,ノイズの影響を低減した時系列の再生ならびに予測する手法を開発するために,入力データと観測データに基づくモデルフリーな逆問題を定式化して数値的に解くというアプローチで研究に取り組んだ.推定アルゴリズムの途中に交差検証を取り入れることで,推定精度が向上すること等が確かめられた.報告時現在,その成果を論文にまとめている. また,本研究では,上記の少センサ/アクチュエータ数の想定の下,特定ノードに対してダイナミクスを変化させる「ノックアウト操作」を用いた構造同定に挑んできたが,この操作によってネットワークが分断されると構造の推定が難しくなるといった問題があった.連結度を特徴づける量として,グラフの代数的連結度があるが,平成29年度は,この特徴量に注目し,少ないデータからそれを推定する研究にも取り組んだ.
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