ロバスト制御は制御対象の変動に対して一定の制御性能を保証することを目的としており,非常に現実的な制御であるが,その制御器の導出問題はロバスト最適化問題とよばれる非常に難しい最適化問題に帰着されることが知られている.この問題を解くにあたり,様々な最適化手法が提案されてきたが,制御対象の次数や制御器変数(問題のサイズ)の増加に伴い,実行に必要なメモリ領域が爆発的に増加するため,汎用の計算機では扱えなくなることがあるという問題点があった.つまり,問題のサイズの増加に対して計算量の増加が小さく,手軽にロバスト制御問題の解を得ることが出来る手法の開発が必要であった. この問題点に対し,本研究では,変動パラメータが存在しない最適化問題の有力な解法のひとつである勾配法に基づく制御系設計法を,ロバスト制御問題の解法へと拡張することを考え,パラメータの変動領域全体で最適化が進む方向を「ロバスト有効方向」と定義し,この方向へ制御器変数を更新するという,新しいロバスト制御系設計手法を構築することを目標とした. 本研究期間を通じて,標準的な制御問題のひとつで比較的扱いやすいH2制御問題を中心に最適化手法の研究を進めた.その結果,ロバスト有効方向は必ずしも存在しないことが研究期間の前半に分かったため,変動領域全体で最適化を進めるのではなく,最悪値を与える可能性がある点(変動領域の端点)に絞って最適化を考えることにした.そして,最終年度では,そのアイデアを用いて,変動領域の端点における有効方向を用いた最適化手法の基礎を構築することができ,現在,幾つか残っている問題点の解消を検討している段階にある.また,本研究を通じて導出したH2コスト関数の最急降下方向を用いた延長上の結果として,外点法型の制御系設計法を提案することが出来た.
|