今年度は,乾燥条件がセメント硬化体の微細構造に及ぼす影響を明らかにするため,以下の3点について検討した.まず,セメント硬化体の水蒸気吸着等温線で生じる低圧部ヒステリシスと等温線上で確認されるスキャニングループを評価できる手法の構築について検討した.検討では,C-S-Hが保有する水分を層間水,表面水,ゲル水と分離し,それぞれの水分の挙動について評価を行うとともにC-S-Hの組成変化に伴う水分量変化を評価した.その結果,C-S-Hの組成変化に基づいて水蒸気の吸着量と脱離量を評価できるモデルを提案した.提案モデルによって,水蒸気の吸着性状に対し,C-S-Hの組成,吸着試験の前処理条件,硬化体の養生や乾燥条件などが影響を及ぼすことが示唆された. 次に,セメント硬化体の酸素の拡散性状に及ぼす乾燥湿度の影響を把握することを目的として,セメント硬化体の屈曲度と乾燥による微細構造の変化に着目し検討を行った.その結果,乾燥湿度の低下によって,メソスケール領域の空隙径分布は大径側へ移行し空隙は粗大化した.また,メソスケール空隙の表面フラクタルを解析し,酸素の拡散係数から得られる屈曲度との比較から,高炉セメント硬化体では,乾燥によるC-S-Hの凝集構造の発展が抑制されることが示唆された.さらに,気体の移動性状に対して乾燥によるミクロからメソ,マクロスケールの微細構造特性の変化が影響することを示した. また,C-S-Hの微細構造としてLow density C-S-H(LD)とHigh density C-S-H(HD)の構成量の違いに着目し,これらC-S-Hの構成量に及ぼすC-S-Hの組成変化の影響について検討を行った.さらに,LDとHDの構成量の違いを考慮することでセメント硬化体の圧縮強度を評価できることを確認し,硬化体の強度に対してHDと比較してLDが大きく影響することを示唆した.
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