研究課題/領域番号 |
26820198
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡部 哲史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20633845)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 気候変動 / 影響評価 / 水文 / バイアス補正 / 大規模アンサンブル実験 / 将来気候シナリオ |
研究実績の概要 |
本研究課題は水分野における気候変動の影響評価に資する効率的な将来気候シナリオ選択手法を提案することを目的としている。近年,気候変動に関する予測が世界の各機関において行われており、得られた予測結果のデータ量は膨大なものとなっている。水分野での影響評価に重要な要素に着目して、大規模データから効率的に特徴的な将来気候シナリオを選択する手法の開発を行う。本年度は前年度までに取り組んできた類型化によって得られた将来シグナルの各グループから、極端な場合や代表的な場合を選択し、それらの代表的なシナリオを用いて水循環シミュレーションを行い、将来の水災害、水資源量に関する代表的な予測結果、極端な予測結果を明らかにすることに取り組んだ。これらの過程において、当初の計画では主に気候モデルから得られる気象変数(例えば、気温や降水量など)に着目しそれらの傾向から各将来シナリオの特徴を把握する予定であった。しかしながら、昨年度から今年度にかけ、日本における地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)をはじめ、世界各国において大規模アンサンブル実験が集中的に行われており、利用可能な気候シナリオが急激に増加しつつあることから、気象変数ではなく気候モデルにより求められた流出量を直接利用する方法の検討も進めた。気象変数を利用する場合は、河川流量を求めるために陸面過程の計算が必要となるが、流出量を直接利用する場合はそれが不要であり、計算コストの削減、ひいては多くのシナリオを考慮に入れることが可能となる。このことを踏まえて、当初の予定には含まれていない流出量の直接利用に関する手法の検討を行った。従来の気象変数を用いて陸面過程の計算を行う方法との比較を行ったところ、流域により傾向は異なるものの、流出量を直接利用する方法でもおよそ従来の方法と同様の結果が得られることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度実施予定の項目は、1)類型化した将来変化シグナルを基にした代表的な将来気候シナリオの作成、2)代表的な気候シナリオを用いた水循環シミュレーションの実行であった。当初の予定では 第5次結合モデル比較プロジェクト(CMIP5)の出力値を対象とする予定であり、それらの出力値に対しては以上の項目を実施した。しかしながら、大規模アンサンブル実験結果の公開が進んでいることから、それらについても追加で考慮する必要があると判断した。水分野における影響評価の予測に含まれる不確実性としては、気候モデルの違いに由来するもの、代表濃度経路シナリオ(RCPシナリオ)の違いに由来するもの、アンサンブル実験結果の差に由来するもの、バイアス補正の違いに由来するものの4つがあるが、このうち従来のCMIP5出力値ではアンサンブル実験に関する結果が不足しており、特に水分野において重要である確率的に稀な事象を考慮するに当たり課題と考えられていた。大規模アンサンブル実験結果の利用はこの課題の解決に大きく資するものであり、本研究の目的を達成するために考慮すべきものである。従って、大規模アンサンブル実験結果を利用するための手法開発を進めた。具体的には、膨大な結果が存在する大規模アンサンブル実験結果を効率的に利用するために気候モデルが求めた流出量を直接利用する手法の開発を進めた。この流出量を直接用いる手法により推定した場合の河川流量が、従来の気候モデルから得られる気象変数により陸面過程を計算する方法で推定した場合のそれとどのように異なるかの検証を行った。気候モデル出力値の補正の際に適切な参照値を用いることで、流出量を直接用いた場合でも気象変数を用いる従来の方法と同様の河川流量の推定が可能となることを明らかにした。これは大規模アンサンブル実験結果を効率的に用いる上で重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定に加えて大規模アンサンブル実験結果を含んだうえで、本研究計画の目的である、水分野における気候変動の影響評価に資する効率的な将来気候シナリオ選択手法の提案に取り組む。膨大な数の大規模アンサンブル実験結果を扱うための手法の開発がこれまでの研究により完了しており、さらに当初の計画内容である、気候シナリオの類型化ならびに代表的な気候シナリオを用いた水循環シミュレーションに関しても当初の計画にあった気候モデル出力値を対象とした実験が既に進められている。故に、今後の実施内容は、1)大規模アンサンブル実験結果を対象とした気候シナリオ類型化、2)類型化の結果を踏まえた代表的気候シナリオによる水循環シミュレーションとその結果の解析、3)本年度までに進めてきたマルチ気候モデルを対象としたシナリオ類型化と水循環シミュレーション結果と大規模アンサンブル実験結果を用いた結果の比較、4)以上の成果のとりまとめ、の4点である。1点目を実施するに当たり、本年度開発ならびに検証を行った流出量を直接用いる手法を適用する。この手法を利用することで、従来の気象変数用いた場合に必要であった陸面過程の計算が不要になるためこの部分の計算コストを省略することが可能となり、それ故に膨大な数のアンサンブル実験結果すべてを対象とした実験の実施が可能である。既に進めてきた気候モデル出力値の類型化とは異なり、アンサンブル実験結果の場合は同一のモデルを利用しているため、得られる結果はいくつかのグループに分けられるというよりも、すべてのアンサンブル実験の平均的な結果を中心として結果がばらつくと考えられる。そのため類型化というよりも予測の幅を把握することが重要と考える。既にマルチ気候モデルを対象に類型化を行った結果の各グループの類似度と、アンサンブル実験が持つ幅を比較することで、両者の関係の把握を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
気候予測情報の増加は計画当初の想定を超えるものであり,特に大規模アンサンブル実験結果に関する利用可能性の拡大は本研究計画に対してもブレイクスルーとも言える大きな変化であった。従って、本研究計画を進める上でもこの大規模アンサンブル実験結果は当然考慮すべきと考え、そのための追加実施項目を最終的な成果とりまとめに先立って実施することとした。追加実施項目は既に本研究計画でこれまでに利用してきた資源にて実施可能であり、特にこのために新規の使用額は生じていない。この変更に伴い、本来は本年に実施すべき項目を次年度実施することとなり、そのために必要な使用額も次年度へと繰り越したため、次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初予定では本年度は得られた成果をとりまとめ、学会での成果発表や学術誌への投稿を実施する予定であったが、上述の理由によりこれらに優先して大規模アンサンブル実験結果を用いた追加の解析やそのための手法開発を実行した。よって、次年度は追加の解析結果を含めた結果をまとめ、本年度実施予定であった学会での成果発表ならびに学術誌への投稿を行う予定である。また、既に必要な多くの解析の終了の目途は立っており、次年度は主に既に得られた結果をまとめる作業が中心となるために、新しく解析のために必要な計算機や記憶媒体を追加する必要はないと考えている。以上より、次年度使用額は主に成果報告のための費用(旅費や学会参加費)ならびに、学術誌へ投稿するための費用(英文校正費用、投稿料)として使用する予定である。
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