研究実績の概要 |
巨大津波による堤防越流・氾濫および洗掘を予測できるモデルの開発を目的として,平成26年度は(1)基本水理モデルの構築,および(2)モデル検証のための水理模型実験を実施した.基本モデルは,堤防を高解像度グリッドで急勾配地形として表現することで,シームレスな越流・氾濫計算を可能にする鉛直積分型のモデルである.モデル構築上の課題となるのは,堤防によって生じる陸・水境界を含んだ複雑な越流水の挙動を安定かつ高精度に再現することであり,浅水方程式に衝撃補足法を適用することでこれを実現した.モデル検証のために簡単な条件で堤防模型を用いた越流実験を実施し,モデル結果との比較を行ったところ,モデルによる越流量はベルヌーイ定理に基づく広幅堰の越流公式による結果に相当することが示された.越流水深が小さい場合にはモデルと実験結果はよく一致するが,越流水深が大きくなると堤防角部で発生する非静水圧(鉛直加速度)の影響でモデル結果は実験結果を過小評価することが明らかとなった.さらに,モデルを東北地方太平洋沖地震津波による三陸海岸での被災事例に適用したところ,現地での被災状況を良く再現できることが示された.堤防背後の洗掘深を表す指標として局所流速の自乗の時間堰分量を堤防に沿って算出し,津波前後の地形測量データに基づく洗掘深との対応を比較したところ両者には良好な対応が見られたことから,高解像度モデルに基づく面的な洗掘予測につながる可能性を見出すことができた.一方で,堤防での非静水圧の影響は,越流水深が大きい場合には10~20%の越流量過小評価につながることから,より高精度なモデル開発のためにはその影響を考慮することが今後の課題として残された.
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