漁船操業ログシステムについては,定期的なメンテナンスを実施するとともに操業時の記録データを回収し,ビッグデータを安定的に生成した.このデータは潮位,温度,振動子オフセットを補正してデータベースに蓄積した. 最終年度は,遠州灘の広域沿岸での土砂動態を明らかにするため,この地形データを用いて分析をおこなった.まず,広域沿岸の汀線情報を沖側の地形変化の特徴から推定するため,浅海域の縦断地形(公共測量の成果)を整理して検討した.これより汀線の変化量が,沿岸砂州の頂部とトラフ(深み)の差の変化量と関連することを明らかにした.また,この相関が海岸の侵食あるいは堆積の傾向別に分類できることがわかった.この関係性を漁船データで得られる沖側の海底地形に当てはめると,高頻度に推定された汀線位置を求めることができた.一方で,推定誤差が時間積分されることなどから,汀線情報の正確さを向上させるには至らなかった.さらに,遠州灘の多くの海岸で年々進行する沖合侵食(沿岸漂砂の消失)を漁業データでも捉えており,今後,この沖合地形と汀線との関連がなくなる可能性があることがわかった. 広域な沿岸での土砂動態については,天竜川河口から東西それぞれ8kmの範囲で水深変化が顕著に生じていることを明らかにした.特に,河口前面のテラスの著しい侵食・後退が継続していることがわかった.土砂フラックスについては,漁業データより生成した沖合の海底地形より近年の沿岸漂砂量を推定し,その特徴を検討した.いずれも構造物の漂砂下手側となる浜名湖今切口の西側および福田漁港東側では,数万立方メートルの土砂量が不足していることを明らかにした.また,天竜川河口から東西へ分配される土砂量は,およそ東向き:西向き=2:1と推定されることがわかった.
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