交通系ICカードは料金支払いのシステムとして,バス・鉄道事業者に広く導入され,普及されている.一方で,システムを介して収集されるデータからは,利用者の利用時間や乗降実態,利用頻度や料金等,人々の行動把握が可能な貴重なデータである.しかしながら,交通事業者では収集されたこのデータを,データ解析のためのノウハウや人材不足等の理由で十分に活用に至っていない. そうした中で,本研究課題では交通系ICカードを活用し,公共交通のOD需要推計モデルの精度検証を目的に展開している.この背景には,東京23区や京都市などのバスでは交通系ICカードにより利用者の利便性が向上し,データが収集されるようになったものの,乗降時のいずれか一方にしか機器にカードをタッチしないために,交通計画を進める上で重要なODが取得されないとの課題を抱えているためである. 平成28年度は,過去2年間に実施してきたベイジアンネットワーク,ニューラルネットワークを活用した需要推計手法について,精度比較並びに手法の課題の抽出を行い,今後の需要予測に向けた整理を行った.両手法ともに,乗車人数規模別に行うことで一定の精度での予測が担保されることが示唆された.また,ニューラルネットワークでは高精度の予測が可能である一方で,予測結果に関する解釈が手法の特性上,把握が困難であり,交通計画を策定するにあたっては,精度面で多少劣ることとなっても,影響要因の把握が可能なベイジアンネットワークを用いることが交通事業者へのヒアリングからも明らかになった.
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