視覚障害者とって困難と危険を覚える状況の一つに屋外道路での単独歩行が挙げられる。我が国では鉄道駅や公共施設を中心とした市街地の幹線道路に視覚障害者誘導用ブロックの整備事例が多く、道路横断では音響式信号機やエスコートゾーン(道路横断帯)による支援も進んでいる。一方、住宅街のような生活道路においては視覚障害者の移動支援に特化した設備の導入はコストや維持管理の観点から積極的でなく、障害当事者は側溝の縁石や外側線といった道路空間に存在するあらゆるものを手がかりとして歩行している。そのような中で度々課せられる無信号交差点の横断は、短距離であっても歩行軌跡の逸脱が発生することが多く安全確保のために心理的負荷が強いられている現状がある。先行研究ではこのような課題を踏まえ、近年普及が進む生活道路に特化した交通安全施設に着目し、交通安全の確保という本来の目的に加え、副次的な効果として視覚障害者の横断を支援する手法を提案し、当事者の歩行実験により支援性と有用性を確認するに至った。 本研究では提案手法のうち交差点内で外側線をつなぐ「ドットラインへの突起取り付け」について道路整備における実現性を確認するため、車いすや自転車への振動といった負の影響について考察するとともに、道路管理者へのヒアリング等を通して実務的課題を抽出した。試験道路空間において小規模の模擬交差点を設定し、仮施工したドットラインの表面に、エスコートゾーンで使用されるものと同様の突起と低めの高さの突起の2種類を取り付けて実験環境を構築し、車いすを通過させて振動評価を行った。その結果、振動解析と主観評価の双方にて、ドットラインと平行に進行する際に突起高が低いと一般的不快感が軽減される可能性があることが判明した。実装にあたっては整備目的に関して車いす利用者のみならず地域住民に対する理解促進の必要性が重要であることが示された。
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