実施者らは,過去の研究において,回帰モデルに基づく多重代入法のアルゴリズムのひとつと位置づけられる空間MCMC法による欠損値補完手法を提案した.土木計画学分野で用いられることの多いデータ,例えば不動産データには,「距離の近いデータが似たような傾向を示す」という空間相関と呼ばれる性質があり,空間MCMC法で,この特性が明示的に考慮されている.一方で,これらの過去の研究では,被説明変数yの空間相関のみが考慮され,説明変数Xの欠損復元においては,既往の多くの手法同様,変数間の相関情報のみを利用していた.すなわち,地点iにおけるある説明変数x1iが欠損しているとき,x1iを他の変数x2iとの相関情報を用いて復元するアプローチである.しかし,欠損値にも,空間相関が存在する場合が多いと考えられ,これを明示的に考慮することで欠損値補完の精度を向上させられる場合も多いと考えられる. 昨年度までに,別の地点jにおけるxljの情報を用いて,xliの予測値の確率分布を取得し,それをxli復元のための事前情報として利用し,変数間の相関情報と組み合わせてxliを復元するモデルの開発を試みた.しかしそのモデルでは,欠損がランダムであることを仮定しており,実用性に限界があった.そこで本年度は,ランダム欠損でない状態についての見当を行った.
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