研究課題/領域番号 |
26820222
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
端 昭彦 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (70726306)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 水環境 / 健康関連微生物 / 腸管系ウイルス / 分子生物学 / デジタルPCR |
研究実績の概要 |
研究の背景 ノロウイルス (NoV) はウイルス性胃腸炎の主要因であり,世界中で胃腸炎を引き起こしている.NoVは感染者より高濃度で排出され,下水処理場等を介して水環境を汚染する.本研究では,都市下水や河川,海域など都市水環境中に存在するNoV群について,リスク管理上特に重要と考えられる遺伝子型に着目し,これらを特異的に定量する手法の開発を目指す.特定の遺伝子型の特異的な定量は,従来のReal-time PCRでは困難であったが,新規技術であるデジタルPCRの使用により実現が期待できる. 本年度の実施内容 解析対象の水試料として,国内下水処理場4箇所での流入水計17試料,処理放流水計17試料,京都府内の河川4地点で計44試料,滋賀県内の琵琶湖15地点で計150試料を得た.試料は全てKatayama et al. (2002) もしくはHata et al. (2015) によるウイルス濃縮操作に供した.濃縮操作ののち,RT-qPCRにより,GI-及びGII-NoVを含む多種の腸管系ウイルス定量を試みた.特にGII-NoVについて,流入及び処理下水試料で100%の陽性率,湖水試料で80%程度の陽性率を示すなど,高頻度で検出された.今後は陽性試料について,NoVの遺伝子配列を解読している予定である. また,デジタルPCRによる遺伝子検出についても基礎的な検討を試みた.プラスミドDNAをデジタルPCRによる定量操作に供した結果,高添加量条件では比較的良好な定量結果を示したが,低添加量条件では添加量と比して定量値が高くなる傾向が見られた.また,ネガティブコントロールについても陽性反応が生じた.これらは,採用した実験条件下では陽性シグナルとバックグラウンドノイズの分離が困難であったことに由来すると考えられ,今後実験条件のさらなる最適化が求められると言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,水試料の収集及び分析を計画していた.これについて,下水処理場流入水,処理放流水,河川水,湖水を計228試料収集し,基礎的な分析に供した.これら試料は多様な環境条件や季節に採取しており,研究目的とした,水処理による除去性,自然水中での消長や降雨応答,季節変動等の評価に十分足るものであると考えられる.計画段階では,これら試料について,NoV遺伝子配列解読まで進める予定であったが,解読の前処理まで実施するにとどまった.この点については計画段階での想定よりもやや進捗が遅れていると評価できる.一方で,本年度の計画には含めていなかった,デジタルPCRを用いた実験条件の検討も行い,さらなる最適化が必要であるとの結論が得られた.この点に関しては当初の計画以上に進展していると評価できる. 以上を総括すると,本年度掲げた研究の目的の達成度について,おおむね順調に推移していると評価ができる.
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今後の研究の推進方策 |
1)環境試料の収集および解析 前年度より継続して行う.試料の解析では,Real-time PCRによりNoV陽性結果が得られた試料について,NoVの遺伝子配列を解読する.
2)NoV遺伝子型定量手法の確立 GII.4 NoVなど,臨床的に特に重要なNoV遺伝子型及び収集した試料の中で,特に高頻度で見られた遺伝子型,②水処理による除去性の低いと考えられる遺伝子型,流行期ではない夏期にもよく検出される遺伝子型 等について,遺伝子型特異的なTaqManプローブを設計する.TaqManプローブ設計の際は,収集資料から得られた配列データに加え,データベース上の配列も参照し,特異性の高さを担保する.設計したTaqManプローブを既往のプライマーと組み合わせ,デジタルPCRによるNoV各遺伝子型の定量手法を確立する.定量系の最適化には環境試料を用いて作成した,各遺伝子型に由来するプラスミドDNAを使用する.複数の遺伝子型が混在している場合を含めて定量性の高さ,検出限界,反応の特異性を検証する.特に,対象とする遺伝子型が他の遺伝子型に対し非常に低濃度である場合については,従来のReal-time PCRを用いた定量も試み,検出感度の面から開発手法の有効性を評価する.
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