研究課題
建物内で日常的に観測される微小振動を利用して，柱梁接合部などの建築構造システムの部分構造（以下，サブストラクチャ）の局所損傷を追跡するセンシング技術の開発している．具体的な課題として，1）地震による局所損傷の進行および微小振動の変化，を同時に評価できる開発環境の整備，2）局所損傷評価指標の提案と実験的検証，３）損傷入り建物モデルの数値解析による残余耐震性能の定量化，を挙げている．初年度の本年度は，外国人特別研究員1名，大学院生3名および学部生1名の参画をえて，主に課題1）と2）に取り組んだ．具体的な成果を以下に報告する．課題1）に関連して，サブストラクチャにおいて，地震による局所損傷の進行および微小振動に励起される固有振動の関係を実験室内で簡易に評価する装置を製作した．本装置は，（a）系全体に地震による水平力を作用させ，破断などの局所損傷を再現する準静的載荷試験と,（b）系全体を振動させ，建物固有振動モードを励起する動的載荷試験を，交互に繰り返すことができる．中層鋼構造の柱梁接合部試験体を対象に，損傷評価振動試験を実施した．結果，柱梁接合部近傍では，動ひずみ応答により推定できる各部材の応力負担率が，局所損傷の進行とともに顕著に変化することを確認した．課題2）では，課題1）の結果に基づき，鋼部材の破断量を直接推定する局所損傷評価指標を提案した．提案指標は，適切に信号処理した動ひずみ応答の実効値（時間平均値）が鋼梁端部の破断に伴い単調的に低下することを利用し，実効値の低下度から破断面の断面欠損量を推定する．数値解析および試験結果において，その有用性と安定性を確認した．一方で，提案指標は対象端部の損傷のみならず，近傍の大きな損傷の影響を幾らか受けることがわかった．これについては，次年度の検討課題とする．
2: おおむね順調に進展している
初年度の本年度は，当初の計画どおり，１）地震による局所損傷の進行および微小振動の変化，を同時に評価できる開発環境の整備，２）局所損傷評価指標の提案と実験的検証，に取り組んだ．いずれの課題も順調に進展しており，研究計画の変更はない．
最終年度では，昨年度に実施した課題1）と2）を継続するとともに、3）に取り組み本研究の結実を図る．また初年度の成果により，損傷評価の対象とする鋼梁端部の近傍に大きな損傷が存在する場合には，損傷評価指標として提案する動ひずみ実効値は対象断面の欠損のみならず，近傍の損傷の影響を少なからず受けることがわかった．最終年度では，鋼梁に床スラブが打設されている場合の柱梁接合部損傷の定量化，および複数の損傷がある場合に損傷度評価の精度を向上する手法の提案，にも取り組みたい．
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Proc. SPIE 9435, Sensors and Smart Structures Technologies for Civil, Mechanical, and Aerospace Systems
巻: 9435 ページ: 94352
10.1117/12.2085300
