研究課題/領域番号 |
26820238
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研究機関 | 都城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
大岡 優 都城工業高等専門学校, 建築学科, 講師 (00612475)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 木構造 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、1「甲虫劣化材の材料試験および仕口実験のまとめ」2「ピロディンによる劣化判定の検討」3「材料試験および仕口実験結果を反映させた数値解析」を行った。 材料試験および仕口実験は、経過年数170年、190年のスギおよび経過年数80年、170年のアカマツを対象としたものであり、シバンムシやキクイムシなどの甲虫によって劣化した材を使用した。材料試験は、繊維直交方向の圧縮である横圧縮試験を主として行い、甲虫劣化の影響について検討した。その結果、劣化度によっては材料の剛性・強度ともに大幅に低下すること、樹種の違いによって劣化の影響が異なることがわかった。仕口実験は、甲虫による劣化箇所を含んだ板状の貫部材を作成し、伝統木造建築物の耐震要素の中でも重要な三角めり込みについて検討したものである。その結果、甲虫劣化は比較的材表面に存在することが多いため、接合部回転角1/240~1/120rad程度の領域では劣化の影響が大きいが、1/15radを超える比較的大きな変形領域においては、変形に伴い劣化による孔部分が潰れることで、ある程度の強度をもつ結果となった。しかしながら、甲虫劣化とともに腐朽を併発している材においては、大変形時においても強度が上がることはなく、載荷の途中で試験体が破損した。 ピロディン(断面約2mm程度のピンを部材表面から打ち込み、ピン貫入深さを計測)による劣化判定の検討においては、仕口実験結果との相関関係を調べたところ、接合部回転角1/15radの大変形時における最大モーメントとピン貫入深さとの間に比較的高い相関がみられた。 実験結果を反映させた数値解析では、貫構造を主体とする京都の寺院を対象とした地震応答解析の結果、建物の構造的な特徴が要因だと考えられるが、甲虫劣化が建物の耐震性能に与える影響は小さい結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は主に、材料試験(横圧縮試験)・仕口実験・ピロディンによる劣化判定の検討・数値解析による甲虫劣化の影響の検討を行ってきた。実験結果の整理や数値解析の実施に重点を置いたため、研究実施計画で予定していた現地調査については、平成27年度以降に実施しようと考えている。 材料試験や仕口実験においては、平成26年度に検討したもので、樹種と劣化度の関係、それらが強度・剛性へ与える影響についてある程度把握することができた。また、ピロディンによる劣化判定の検討については、実験の実施により、甲虫による食孔は同一部材に連続的に存在しないことも多く、ピロディンによる測定箇所は点として限定されるため、実際の建物を対象とする場合、ピン貫入箇所は可能な限り多くすることが望ましいことがわかった。さらに、材料試験・仕口実験の結果を反映させた数値解析の結果、貫構造を主体とする伝統木造寺院においては、腐朽などを併発していない限り、建物の耐震性能に大きな影響を与えることはないことがわかった。 平成26年度に実施したこれらの実験・数値解析により、今後の研究を遂行する上での重要なデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度で実施できなかった現地調査による甲虫被害状況の把握については、平成27年度以降に実施し、甲虫被害の種類や劣化部位、樹種について把握していきたいと考えている。 材料試験・仕口実験においては、平成26年度で実施したもので、ある程度の分析はできたが、甲虫劣化が材料や接合部性能に与える影響を詳細に把握するためには、さらなるデータの蓄積が必要だと考えられる。特にアカマツにおいては、劣化状況が不規則な試験体も多く、劣化度の分類も比較的困難であった。現在保有している構造材年数80~200年程度の甲虫劣化材(スギ・アカマツ・クリ)を対象に、さらなる実験の実施、データの蓄積を行いたいと考えている。 劣化判定の検討に関しては、平成26年度は、ピロディンの貫入深さと仕口実験による接合部最大モーメントとの相関について調べた。相関関係は、接合部回転角が小さくなるにつれ低くなる結果となった。今後は、ピロディンに加え、既存の劣化試験体、および劣化を模擬した試験体に対して、衝撃波による伝搬速度を計測し、対象試験体の実験結果と照らし合わせることにより、劣化判定が可能か検討したいと考えている。 甲虫劣化が建物の耐震性能に与える影響の検討については、現在、一つの建物を対象として地震応答解析を行っている。伝統木造建築物は、多様な構造形式が存在するため、平成27年度以降、いくつかの寺院および古民家を対象とした数値解析を実施し、構造別での甲虫劣化の影響について検討していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、既存の試験体や実験器具を用いることが多く、また、現地調査を実施しなかったこともあり、103,483円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、平成27年度に実施予定の、「甲虫劣化材の劣化判定の検討」に使用する、衝撃波の伝搬速度を計測する機器の購入に充てる予定である。
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