本研究では、貯留水(瀬戸内地域に点在する深さ5m程度の調整池や貯水池を指す)の持つ未利用熱をヒートポンプの熱源として活用する新規熱源システム(RSHPシステム)の開発を目的とし、実使用時のシステム性能への影響が大きい「熱源温度」の変動を簡便に予測するシミュレーションプログラムを作成した。 貯留水は基本的に流入/流出による交換が少ない停滞性水域であるため、建築物または街区の冷房/暖房用熱源の利用を想定した場合、河川水や海水等の移流性の熱源に比べ、ヒートポンプの運転および停止により熱源温度の変動が大きいと予想される。本研究では、自然状態の貯留水において、秋から冬にかけて発生する水面から下方向の自然対流による鉛直混合現象を相似則で表した「連行則」を、ヒートポンプの放熱により発生する自然対流に対して適用することでプログラムの簡略化を図った。 具体的には、数条件のヒートポンプ運転/停止スケジュールを与えたときの熱源温度の変動を1時間毎に計算し、年間の熱源温度挙動を予測した。夏季に冷房、冬季に暖房を行う「基本条件」では、従来の空気熱源方式と比較した省エネルギー率は、暖房期間に負の値を示し、年間でも省エネルギー効果はほとんどみられなかった。これに対し、冬季にも冷熱利用を行う「冷熱源利用条件」では、年間の省エネルギー率は約12%まで向上した。今回の計算の範囲では、一日の運転・停止スケジュール、特に停止時間の違いによる熱源温度の回復力としては大差が現れなかった。今後の実システム化に向けては、地域性や貯留水のもつ回復力に応じた運用により、貯留水の省エネルギー効果の向上が期待できると考えられる。
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