建築室内の音響設計・予測には室形状と境界の吸音性状に関する情報が不可欠である。この吸音性状として最も一般に用いられる残響室法吸音率は、測定者や測定室により測定値がばらつくのに加え、測定値を実際の音響設計で利用する際にも設計者の「経験と勘」に依存することが多い。本研究では、近年急速に発展している波動音響に基づく非定常音場シミュレーションを駆使し、以下2つの検討を通して、残響室法吸音率測定値の普遍性向上、ならびに音響設計・予測の精度向上と効率化を目指した。 1、残響室法吸音率補正手法の確立と適用範囲の検証:残響室法吸音率が変動する要因は、測定試料の設置手法や残響時間の読み取り誤差等も考えられる。この研究では、数値シミュレーションを用いることで、室内音場の拡散性に関わる要因、すなわち周波数・室の形状・容積および測定試料の寸法・吸音率のみに着目し、残響室法吸音率の補正手法を提案した。具体的には、測定室全壁面へ入射する音のエネルギーに対する測定試料へ入射する音のエネルギーの割合について、1次元及び3次元音場で時間領域有限要素法を用いた算出手法の妥当性を検証した後、室形状、周波数、測定試料の寸法及び吸音率の異なる72の音場で算出を試みた。同様の試料面積・吸音率の試料でも、室形状によりこの割合が大きく異なり、特に中・高周波数域で吸音率が高い試料を測定する場合、本手法による補正効果が高い可能性を示した。 2、実際の音響設計における測定された吸音率測定値の利用手法開発:一般の室として扉や窓までモデル化した約50立方メートルの矩形室を対象に、周波数、天井の吸音率の異なる45の音場で、時間領域有限要素法を用いた解析を実施し、拡散音場を仮定して予測される残響時間と解析により得られる残響時間の差を整理した。また解析結果より1、で用いた割合を各音場で求め、この差との関係を明らかにした。
|