本研究は,2002年以降の期間において,わが国で生じた犯罪減少の地理的なばらつきに着目し,その理由を,防犯まちづくりの実施と内容の観点から説明しようとするものである.これを通じ,この10年間の取り組みの「何が有効であったか?」を検証するとともに,得られた成果を科学的知識として実務者に届けることを最終的な目的としている. 本年度は,防犯まちづくりの一環として多く行われてきた防犯カメラの設置事業を対象に,事業の実施実態の解明と効果検証を行った.具体的には,第一の研究として,一度に100台以上の規模で防犯カメラの設置事業を行った8自治体へのヒアリングから,事業の方法論を明らかにし,さらに,犯罪統計や市民アンケートの結果も加えて,事業の評価を行った.その結果,1)防犯カメラの設置過程,事業を主導する主体や市民への広報に対する考え方等の面において自治体により大きく異なる.2)現在の防犯カメラ設置過程には,防犯カメラの設置規模や設置箇所の決定過程や市民への説明の機会の面で問題がある可能性がある.3)防犯カメラ設置から5年が経過した一事例では,防犯カメラが車両関連犯罪を減少させ,市民にも受容された可能性が高いと考えられる,の3点を明らかとした. 第二の研究として,日本の典型的な繁華街である福岡県の中洲地区と天神地区を事例に,防犯カメラの設置効果を犯罪の実データを用いて明らかにした.その結果,中洲地区のひったくり,自転車盗,車両関連犯罪において,カメラから近い距離帯で純効果が確認される一方で,天神地区のカメラでは効果が認められなかった. 最後に,一連の研究を専門家向け書籍の一部に盛り込み,研究成果の普及を図った.
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