平成28年度は鹿児島県奄美市名瀬(旧名瀬市)を対象として下記の調査に取り組み、市街地における賃貸共同住宅について公的融資の側面から考察した。 【1】1950~60年代の名瀬市政における都市計画・住宅政策の理念と実績の調査: 戦後の市政だよりを総覧し、1956年に財団法人名瀬市住宅協会が設立されていたことを明らかにした。市の経済課長と市議会の商工水産委員長が常務理事を務めており、商工行政の一環であることと議会の関与がうかがえる。これは1951年設立の鹿児島市住宅協会と共通する点であるが全国的には珍しい。ただ今回の調査では、初年度に計画された「店舗付多層家屋」は特定できず、その後の住宅協会の実績も確認できなかった。 【2】中心市街地における店舗付共同住宅の調査: 10戸以上の住戸を有する共同住宅を対象として、過去の住宅地図と建物登記簿をもとに建築的特徴や所有者を分析した。その結果、個人商店等の建て替えの際に公的融資を受けた事例を調査対象の約半数で確認できた。 【3】産業労働者住宅としての織工アパートの調査: 名瀬において中高層耐火建築物としての共同住宅の建設を先導したのは、大島紬の機屋である。1960年代に有能な織工を確保するために、織工場などの生産空間と住宅とが併設もしくは併存・併用した形式の共同住宅が建設され、その際に公的融資が活用された。現在は償還が終わり住宅部分は一般の賃貸住宅となっているものが多い。 以上の調査から、民間事業主が公的融資を通じて職住一体の生活様式を継続させつつ住宅供給を担っていた状況を明らかにした。名瀬では南北約2㎞、東西約500mの市街地に織工アパートだけでも40棟近くが現存しているが、維持管理の面では課題も抱えている。今後、これらの再生・活用を検討する際には、公的支援を受けて形成された社会的な住宅ストックとしての位置づけが重要になると考えられる。
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