2017年度は想定する症例を重症・危篤から中等症に変えて取り組んだ。本申請が構築した手法を適用する地理空間情報の再整備を行い,考察に必要な指標を算出した。具体的に算出した指標は,①医師による医療行為開始に要する時間の短縮時間,②短縮時間によって生じる救命率の向上率,③短縮時間が生じたメッシュ内の人口を短縮時間に乗じた値,④救命率向上が生じたメッシュ内の人口を向上率に乗じた値,である。 新たに得られた知見の概要を後述する。まず,中等症を対象とした場合に優先的なランデブーポイント化が望ましい場外離着陸場を把握した。次に,ドクターカー基地病院の適正な追加数は5であること,及び具体的な病院を把握した。そして,把握した適正配置を実施した場合に期待される効果を算出すると,現状のドクターヘリ及びドクターカー体制に場外離着陸場のランデブーポイント化・DC基地病院5箇所追加を行うと,平均医療行為開始時間は約4分20秒減少,短縮時間合計は16.84%増加,短縮メッシュ内の人口は13.57%増加,短縮時間×人口は21.39%増加,平均救命率は6.89%向上,救命率向上率合計は27.97%増加,救命率向上メッシュ内の人口は13.62%増加,救命率向上率×人口は25.48%増加するという結果を得た。 上記の知見は医療業務従事者による救命率の向上の限界の明示でもある。基地病院・ランデブーポイントを無数に増やしたとしてもその効果は頭打ちとなり,非医療業務従事者による救急救命に関する方策が必要あることも把握した。この発展的な課題についても,非医療業務従事者による救急救命と大規模災害時の避難について取り組んだ。前者については解析する手法構築の試行を完了した。後者については避難及び避難生活の拠点となる施設の適正配置を把握した。一部の成果が未発表であるため,申請期間中全体の成果のとりまとめと併せて発表の準備中である。
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