本研究は戦後台湾集合住宅における住民の生活様式を解明するものである。本年度は2015年度に引き続き、1960年度後半から1970年代前半にかけて建設された南機場アパートメント(南機場公寓)において、《住民により「移植」された在来空間形式》を考察した。 調査手法としては、本研究がこれまでに用いた建築学的調査手法に加え、民俗学的調査手法も導入した。具体的な調査内容は(1)住宅の実測、(2)ライフストーリーおよび空間の使用方法に関する聞き取り、(3)住民の生活への参与観察である。住宅を実測する際に、住宅の内装や家財道具まで図面に書き込んだ。聞き取りでは、南機場アパートメントでの空間の使い方だけではなく、入居するまでの住環境や生活習慣も確認対象とした。このような調査を通して、住民の生活と空間の関係性、そして空間の使い方の動態的な変化を把握することができた。参与観察では、南機場アパートメントに立地する廟の行事に参加し、関係者に廟がいつ、なぜ、どのように作られたかを確認した。また、町内会に相当する「忠恕社区発展協会」の会員代表会議などに参加し、コミュニティの発展過程を明らかにした。 本研究の結論として、戦後台湾の公営集合住宅では、設計者が住民の生計の場を設けるために集合住宅の中に市場を計画した。他方住民の側でも住宅における空間不足を解決するため、半楼仔と総舗を設置した。また商売や生活の加護を求めて廟を設けた。これらはいずれも台湾漢人の伝統的住宅、あるいは伝統的都市のおける生活習慣の延長線上に位置づけられるものであり、このような在来空間形式の「移植」は戦後台湾集合住宅での生活様式の特徴と考えられる。今年度の研究内容の一部を「狭小集合住宅を生きる─台北市南機場阿マートメントにおける生活のかたち」にまとめ、『現代民俗学研究』第9号(2017年3月、現代民俗学会)に掲載された。
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