本研究の目的は、タイ・バンコクにおける洪水対策の変遷を、1960年代以降のダムや遊水地の建設といった行政が行う大規模な「防災システム」と、住民が独自に行ってきた、敷地の土盛り、高床式住宅の建設といった洪水と共存する「減災システム」の両面から明らかにすることである。 平成28年度は、平成27年度に続き、バンコクを護るため1990年代以降、広大な遊水地が設置された、アユッタヤー県バーンバーン区において、2011年の大洪水を含む洪水時の高床式住宅の様子や居住者の対応に関する現地調査を行った。平成28年9月14日から19日に、3名の学生調査協力者と共に、バーンバーン区において、まず平成28年度に行った実測調査(高床式住宅7棟と高床式牛小屋4棟)の補足調査を行った。そして、新たに高床式住宅4棟で現地調査を行った。 この結果、バーンバーン地区の高床式住宅の床高は平均2000ミリほどであり、集落の地盤高の高低差に起因して、2011年の大洪水時には集落ごとに床上浸水の度合が大きく異なっていたことが明らかとなった。そして、地区の集落を、その地盤高に応じて、自然堤防集落、微高地集落、低地集落という3つの集落タイプに分類した。それら3つの集落タイプの高床式住宅では、2011年大洪水時の対応が大きく異なっていた。 自然堤防集落の高床式住宅では、多くが床上浸水しなかった。微高地集落のものでは、軽微な床上浸水はしたものの、脚の高い家具を床上に設置するなど簡易的な対応を行っていた。一方、低地集落のものでは、床上800から1200ミリほど浸水したため、多くが床板の一部を持ち上げる住宅改造を行っていた。 こうして高床式住宅では、床上浸水を伴う大洪水が発生する場合、土地の地盤高に応じて浸水の度合を予想し、床上に脚の高い家具を置いたり、床板を持上げたりする住宅改造を行い、対応していたことが明らかとなった。
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