研究実績の概要 |
近年、新規磁石材料の開発が熱望されており、そのためには高飽和磁化を有するFe基の高保磁力材料の探索が必要不可欠である。高保磁力を実現するには、結晶磁気異方性が大きい必要があるため、異方的な結晶構造を有するFe基磁性材料の探索が必須である。そこで本研究では正方晶Fe基ホイスラー合金に着目した。本合金は正方晶構造をとり得ることが第一原理計算により指摘されているが、溶解法にて作製した場合、立方晶となることが報告されていた。そこで薄膜技術を用いることで正方晶Fe基ホイスラー合金薄膜の作製を試み、結晶構造と磁気特性の関係を明らかにすることを目的としている。具体的には、以下を目的としている。 (a)正方晶Fe系ホイスラー合金薄膜の作製、(b)結晶構造と磁気特性の調査、(c)添加元素が結晶構造と磁気特性に及ぼす影響調査 本年度は、(a)の正方晶Fe系ホイスラー合金薄膜の作製を行った。 基板としてYSZ(001)基板、SrTiO3(001)基板、MgO(001)基板の三種類を用い、これら各種基板上にFe-Ni-Ge薄膜を作製し、成膜時の熱処理温度に伴う結晶構造と磁気特性を調べた。まず最もミスフィットが小さいYSZ(001)基板上に、室温, 300, 500, 600℃の基板加熱下でFe-Ni-Ge薄膜を成膜した。その結果、基板加熱温度が増大するにつれてFe-Ni-Ge系合金が得られたが、その構造は立方晶であった。また、YSZ基板上ではエピタキシャル成長が確認されず、さらに等方的なヒステリシスループが得られたことから、多結晶体になっていることが示された。そのため、YSZ以外の他の基板上に500℃の基板加熱下でFe-Ni-Ge系合金を成膜した結果、SrTiO3基板上では基板加熱下で成膜してもエピタキシャル成長することがXRDより分かった。しかしながら得られた合金は立方晶系であり、組成調整ならびに成膜条件のさらなる最適化が必要と分かった。
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