研究課題/領域番号 |
26820283
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 博之 京都大学, 低温物質科学研究センター, 研究員 (50727419)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ローンペア / 酸化物半導体 / パルスレーザー堆積 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
ローンペア電子を有する2価Snを含む酸化物は,これまでに合成報告が少なく電気伝導性に関する情報も限られている.本研究では,ローンペア電子が作るユニークな2価Sn配位環境に着目し,SnNb2O6など2価Sn複合酸化物の合成および電気伝導性評価と原子・電子構造との相関解明を目的としている.平成26年度は,SnWO4,Sn2Nb2O7, SnNb2O6のPLD成膜条件に関し,単相を合成できる基板温度,酸素分圧,レーザーパワーなどの成膜条件を最適化した.その結果,いずれの試料においても単相試料の合成に成功し,Sn2Nb2O7, SnNb2O6では良結晶性の薄膜を得ることができた,これらの試料に対し,ホール効果およびゼーベック効果測定などを行った結果,ドーパントを添加していない試料は高い電気抵抗を示すことがわかった.これらの化合物においてアクセプタとなるドーパントの添加を行ったが,試料の電気抵抗はいずれも高いままであった.一方で,ドナーとなるドーパントをを添加した場合,一部の化合物では電気抵抗の減少がみられた.今回ドーパントの添加実験を行った化合物では,Snの配位環境が類似している系においても電気抵抗の変化に関して異なる挙動が見られているため,Sn以外の構成元素によって補償欠陥の入りやすさが異なっていることが示唆される.また,これらの系における完全結晶の第一原理計算の結果から,Snの配位環境と価電子帯の電子構造に関する相関を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度に予定していた合成条件の最適化は一通り終え,次年度での評価実験に供する試料の準備を終えることができたため.また,平成26年度には予定していなかった,新規のSn複合酸化物の合成実験にも着手するなど,当初の計画以上に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,薄膜中のSnの酸化状態や添加元素の置換サイトを,X線分光実験やメスバウアー分光法により検証する.また,点欠陥が存在する系の原子・電子構造を第一原理計算により予測し,2価Snのローンペア電子が作る原子配位環境と電気伝導性に関して考察を行う.また,これまでに報告のない系の合成に成功した場合は,そちらの評価も優先的に行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりも薄膜合成のプロセスを最適化し効率化することができたため,消耗品等の物品費を減らした.一方,当該年度において当初の予定にはなかった新規2価Sn化合物の合成に成功したため,次年度はこの物質の評価のために新たに使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
新規化合物の合成手法の最適化のため,試薬や石英管等の購入費として使用する.
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