第一原理非調和格子力学計算を用いて多様な結晶系のフォノン間相互作用強度、フォノン緩和時間、格子熱伝導率を計算した。閃亜鉛鉱型、ウルツ鉱型、岩塩型構造の101種類の結晶に対して系統的に格子熱伝導計算を行い、これらの情報を元に機械学習を用いて低格子熱伝導率材料を予測することを試み、その結果、既知の結晶構造データベースから従来低熱伝導率として知られていなかった材料が抽出された。これにより、結晶の体積や構成元素などに対して格子熱伝導率が一定の傾向を示すことが確認できた。 一方、多数の結晶のフォノン状態を調べることで、微視的にはフォノン間では非常に繊細で複雑な相互作用をしていることがわかった。このような多様なフォノン状態を観察するために、可視化ツールの開発を行った。近年コンピュータの汎用スクリプト言語で操作可能な作図ライブラリや三次元可視化ライブラリがオープンソースとして公開されており、これらを利用してブリルアンゾーン内の物理値の分布を描画するためのソフトウエアを開発した。このソフトウエアを用いることで、フォノン線幅が波数ベクトル空間で鋭く変化する様子などが観察できるようになった。 微視的な物理値であるフォノン間相互作用と巨視的な物性値である格子熱伝導率のあいだの関連を見出すために、平均化したフォノン間相互作用強度を定義し、二次構造相転移前後におけるその値の変化を調べた。二次の構造相転移前後では結晶構造は大きく変化しないが、ブリルアンゾーン内のフォノンバンド構造が局所的に激しく変化する。このとき、平均化したフォノン間相互作用のフォノン振動数に対する分布全体が相転移前後で変化することがわかった。つまり、ブリルアンゾーン内の体積要素としは小さなフォノンバンド構造の変化が、フォノン間相互作用全体にに大きく寄与しうることを示している。
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