研究課題/領域番号 |
26820287
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
川本 直幸 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (70570753)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱抵抗 / 熱伝導率 / 透過電子顕微鏡 / ナノスケール / ゼーベック効果 / 複合材料 / 温度計測 |
研究実績の概要 |
本年度は、透過電子顕微鏡法(TEM)を利用したナノスケール熱伝導計測手法の基盤技術の確立を目指し、形状を吟味した計測試料の作製および電子線照射による熱投入時のTEM試料の温度変化の計測を試み、局所的な熱抵抗の評価を試みた。 まず、モデル試料として高熱伝導性フィラーであるアルミナ粒子を低熱伝導性樹脂中に分散・硬化させたバルク上の試料から、2つの隣接するフィラー1および2の間に約50 nmのナノスケール界面が含まれるような薄片を集束イオンビーム(FIB)を用いて取り出し、予め平坦化したW台座上に支持させたTEM試料を作製し、高真空中のTEM内に挿入した。TEM観察時にピエゾ素子で精密に位置制御したコンスタンタン-クロメル熱電対をTEM試料上のフィラー2に接触した定点Mで局所温度を計測し、フィラー1および隣接するフィラー2内の複数の位置に、一定の熱量を常に投入するための定電流値50 nAの集束電子線を照射し、この時に点Mで生じる温度変化に伴う熱起電力を計測した。フィラー1上でほぼ直線上の熱投入点A→B→Cの経路で、集束電子線の位置を定点Mから遠ざけたところ、定点Mからの熱投入位置までの距離の増大に伴い、フーリエの法則に従うように線形で点Mの温度が低下した。さらに点Mと直接接するフィラー2上で、集束電子線を用いて同熱量を投入し、点Mにおける温度変化を計測した。フーリエの法則を適用し、フィラー2および1つの界面を跨いで接するフィラー1内のそれぞれの区間で計測された温度勾配を基に、フィラー1と2の間に存在するナノスケール界面の熱抵抗値を求めた結果、およそ~10^-8 m2K/Wであることが明らかとなり、従来の理論計算やバルクの実験による界面の熱抵抗に関する文献の値ともほぼ一致した。このように、本計測手法の開発により、TEMを利用したナノスケール界面の熱抵抗の直接評価に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、様々なナノスケール先端材料が抱える熱物性に関する問題を、ナノスケール材料の微細構造評価が可能な透過電子顕微鏡(TEM)の電子線による熱投入手法とナノスケール熱電対を組み合わせた探針操作技法を組み合わせることで、前例のない空間分解能と位置分解能を持った定常熱伝導計測手法を開発することを通して解決することである。本年度は、実際にナノスケール熱電対をTEM内に導入し、従来計測不可能であった複合材料内のフィラー間の界面の熱抵抗を評価することに成功しており、当初の計画に照らし合わせてもおおむね順調に進展している。さらに、現在、本手法を利用した熱伝導率が未知の材料の熱伝導評価や走査電子線による熱投入位置を走査させることにより、複合材料内の熱流経路の調査や熱伝導率が未知の新規ナノスケール材料の評価などについても計画している。将来的には、開発した本手法を放熱用複合材料などの新たな実用材料の開発に役立つ熱伝導性評価手法の開発も視野に、次年度に向けた研究を着々と進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、開発を進めてきた本TEM内定常熱伝導計測手法において、集束イオンビーム(FIB)を駆使することで、各々の熱伝導測定に適した効率的な試料形状を作製する必要がある。これまでの本研究での熱伝導性評価に用いてきた測定用試料は、W台座の上に支持させた複合材料の2次元的なTEM試料の一端に、電解研磨法で作製した2本の探針からなるナノスケール熱電対を物理的に接触させて、集束電子線照射下の試料における局所的な温度変化の計測を行ってきた。本試料セッティングは、放熱用複合材料における熱流の評価に有効であると考えられ、今後の研究においては、電子線による熱投入位置を2次元的に試料上で走査することで、熱抵抗が高い樹脂中に分散する複数のフィラー間で、どのような熱伝導経路が生じているかを、温度分布(走査時の熱投入位置の違いによる固定熱電対の温度の上がり方を比較)を2次元的に可視化して評価する予定である。 一方で、未知のナノフィラー材料や新規ナノワイヤなどの材料の熱伝導率を評価するためには、より1次元的な熱流を試料に印加し、さらに熱伝導率が既知の試料との熱伝導率の比較ができるような試料セッティングが必要である。 そこで、今後は、ナノスケール材料の未知の熱伝導率を計測するために、予めFIBで先端を平坦化したコンスタンタン台座上に、新たに熱伝導率を測定したい試料と熱伝導率が既知の参照試料を直列に配置した1次元的な試料の作製を試みる。さらに、フーリエの法則に基づいた各材料間における温度勾配比を測定し、測定試料の熱伝導率を試みる予定である。この時、クロメル探針を試料を支持するコンスタンタン台座に接触させて温度計測を行い、集束電子線による熱投入位置を、1次元的な試料の軸方向に走査して各区間の温度勾配の評価を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度は、温度計測および解析に用いるコンピュータの購入したが、現在計画している未知の材料の熱伝導率計測用試料作製に用いる蒸着装置の組み立てに必要な高価なターボポンプなど購入に当てるため、前年度に使用する経費を、次年度の研究計画に必要な経費として使用計画を変更したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、温度計測用試料の作製および熱処理用の新たな装置に用いるターボポンプ等を購入する予定である。
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