本年度は、走査透過電子顕微鏡法(STEM)によるナノスケール熱投入とナノスケール熱電対による局所温度計測を組み合わせた熱伝導評価手法における時間分解能および試料作製法の向上を図った。 フーリエの法則によると、微小な熱抵抗や熱伝導性を測定するためには、試料に流す熱量を増加させるかより微小な温度勾配を検出する必要がある。本手法では、STEMによる試料への投入熱量の増加および検出する熱起電力の分解能の向上を目指し、レンズ条件の変更による収束電子線の電流量の増加および信号増幅および適切なノイズフィルターの吟味による温度計測時のノイズの低減を試みた。これまでの本手法による計測では、数10μVの微小な起電力の信号を必要以上に積算し、ノイズフィルターを通して記録する必要があったため、通常のボルトメーターにより記録した後、コンピュータ上において2次元的な温度変化分布像を再構築していた。一方、電気回路への増幅回路の導入や適切なローパスフィルターの導入により、本年度の研究において、時間分解能をある程度向上させることで、高い空間分解能および温度分解能を示す2次元温度変化分布像をSTEM像と同時に取得することができた。本研究結果について、日本顕微鏡学会第72回学術講演会において発表を行った。 これまでに、熱伝導率が既知の参照試料と熱伝導率を計測したい試料(測定試料)を直列に配置した1次元的な棒状の試料の作製法を確立することで、1次元的なフーリエの法則に基づく定量的な熱伝導性の解析ができるようになったが、試料作製において、参照試料と測定試料を直列に接続するためにSi蒸着などのFIB外での作業が別途必要であった。そこで、この過程をみなおし、FIBによるスポット蒸着蒸着条件の見直しを行ったところ、本棒状試料の作製をFIBのみで済ませることが可能となり、定量熱伝導計測用試料の作製時間が大幅に短縮された。
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