研究課題/領域番号 |
26820296
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
末國 晃一郎 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (10582926)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱電変換 / 熱電物性 / 相転移 / 硫化銅鉱物 / テトラへドライト / コルーサイト |
研究実績の概要 |
本研究では,高性能熱電変換物質であるテトラへドライトCu12Sb4S13の格子・電子構造を調べることで,室温以上での低い熱伝導率と高い熱電能の原因を明らかにし,さらに85 Kでの金属-半導体転移の起源を解明することを目的とする。また,テトラへドライトの熱電変換性能の向上と,新規な高性能物質の創製を目指す。本年度は,以下に示す成果を得た。 (1)相転移のない置換系のCu10Zn2Sb4S13を用いた比熱と熱伝導率の測定から格子構造を調べた。比熱測定から,特性温度20 Kの低エネルギーフォノンモードが在ると判った。この低エネルギーモードは,[CuS3]三角形中のCuの面直方向への大振幅振動に起因すると予想した。さらに,Cu10Zn2Sb4S13の熱伝導率が4 K付近にプラトーを有するというシリカガラスに似た振る舞いを示すことを見出した。これは,熱を伝える音響フォノンと低エネルギーモードが強く相互作用していることを示唆する。 (2)相転移の原因に関する知見を得るために,金属-半導体転移に対する圧力効果を調べた。転移は物理的圧力の印加により抑制され,1 GPa以上の圧力で消失する。一方,SbをAsで置換して化学的圧力を印加すると相転移は安定化し,Cu12As4S13は124 Kで転移することが判った。現在,これらの結果と結晶構造の特徴を関係付けて相転移の機構について考察している。 (3)新規な熱電変換物質の探索により,硫化銅鉱物のコルーサイトCu26V2M6S32(M = Ge,Sn)が660 Kにおいて高い無次元性能指数ZT = 0.73(Ge), 0.56(Sn)を示すことを見出した。コルーサイトが高い性能を示すのは,Cu-3dとS-3pの混成軌道からなる価電子帯が良い電気的特性をもたらし,結晶構造の複雑さが熱伝導率を下げているためであると判った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,テトラへドライトCu10Zn2Sb4S13の熱伝導率がガラス的な温度依存性を示すことと,Cuの大振幅振動に由来するであろう低エネルギーフォノンモードが存在することを見出した。しかし,室温以上でテトラへドライトの熱伝導率が低く抑えられている原因は明らかにできていない。また,金属-半導体転移を示すCu12Sb4S13の圧力実験から,物理的圧力に対しては転移が抑制され,化学的圧力に対しては転移が安定化するという対照的な結果を得た。この結果を理解するためには,低温半導体相と圧力下での結晶構造の情報が不可欠である。この様に,テトラへドライトのマクロ物性研究については概ね順調に進展しているが,低熱伝導率と高い熱電能および相転移の起源を解明するためには,ミクロ測定により結晶・格子・電子構造を詳細に調べる必要がある。 新規な熱電変換物質の探索は当初の計画以上に進んでいる。硫化銅鉱物の一種であるコルーサイトCu26V2M6S32(M = Ge, Sn)の合成方法およびホットプレス焼結法による高密度多結晶体の作製方法を確立し,この鉱物が約400℃において高い無次元熱電性能指数ZT = 0.73(Ge), 0.56(Sn)を示すことを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
テトラへドライトCu12Sb4S13の結晶・格子・電子構造について調べ,室温以上での低い熱伝導率および高い熱電能と85 Kでの相転移の原因を明らかにする。この目的を達成するために,非弾性中性子散乱などのミクロ測定を計画している。また,これらの結果を置換系Cu10Zn2Sb4S13とCu12As4S13と比較して議論する。 コルーサイトの熱電変換性能を高めるために,組成比の制御と元素置換を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に計画していた中性子非弾性散乱実験が次年度に延期になったため,そのための旅費・宿泊費を持ち越す必要が生じた。 ミクロ測定に必要になるであろうテトラへドライト単結晶の予備的な作製を行った結果,作製条件の最適化には多量の原料・石英管・不活性ガスなどの消耗品が必要になると予想された。そのために,消耗品費の一部を持ち越した。
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次年度使用額の使用計画 |
テトラへドライトの中性子非弾性散乱実験を行い,格子構造を明らかにする。また,テトラへドライト単結晶の作製条件を最適化する。
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