研究課題
本研究は,硫化銅鉱物のテトラへドライトCu12Sb4S13における高い熱電能とガラス的な格子熱伝導率,および85 Kでの金属-半導体転移の原因を明らかにすることを目的とする。また,硫化銅鉱物を対象として,高性能な熱電変換物質の創出を目指す。本年度は,前年度に実施したテトラへドライトのマクロ物性の研究を進めると共に,放射光X線回折実験,中性子非弾性散乱実験,および光電子分光実験から結晶・格子・電子構造に関する知見を得た。また,本研究で発見した高性能熱電物質のコルーサイトCu26V2Sn6S32の高性能化を目的としてキャリア密度制御を行った。研究実績の概要を以下に記す。(1)Cu12Sb4S13を相転移温度以下まで冷却すると,結晶構造が立方晶(axaxa)から正方晶(2ax2ax2c)へ変化することが判った。それと同時に,Cu原子の大振幅振動に由来する低エネルギーフォノン構造が大きく変化し,さらにフェルミ準位における電子状態密度が減少することを明らかにした。他方,SbをAsで全置換したCu12As4S13も相転移を示すが,転移温度以下でも立方格子(axaxa)を維持することが判った。(2)テトラへドライトとコルーサイトのフォノン物性を比較した。テトラへドライトは低エネルギー光学的モードを持つが,その様なモードは結晶的な熱伝導率を示すコルーサイトには存在しない事が判った。この比較から,テトラへドライトにおけるガラス的な熱伝導率の発現には低エネルギーモードが重要な役割を果たしていると結論できる。(3)コルーサイトCu26V2Sn6S32のCuをZnで置換して電子をドープし,Snを欠損させてホールをドープした試料の性能を評価した。Sn欠損系では400℃での無次元性能指数が10%程度向上し0.62となった。
2: おおむね順調に進展している
テトラへドライトCu12Sb4S13の多結晶試料および単結晶の作製方法を確立した。その試料を用いたマクロ物性測定とミクロ構造解析から,ガラス的な熱伝導率と金属-半導体転移に関する知見が得られている。また,As置換系Cu12As4S13も相転移を示すことを見出した。さらに,それらのZn置換やAg置換試料の作製と測定も行っている。この様に,昨年度末に立てた研究推進方策を順調に遂行している。コルーサイトCu26V2Sn6S32の熱電変換性能の向上を目指したが,その増分はわずかであった。しかし,CuのZn置換による電子ドープとSn欠損によるホールドープという2つのキャリア制御の方法を明らかにしたことは大きな進展である。
テトラへドライトCu12Sb4S13およびその置換系のマクロ物性測定とミクロ構造解析の結果を取りまとめ,金属-半導体転移の原因を明らかにする。Cu原子の大振幅振動が相転移の引き金になっていると考えられるので,原子変位パラメータと低エネルギーフォノンモードの関係を詳細に探る。コルーサイトの性能をより高めるために,SをSeで置換して熱伝導率を低減させる方法を採る。これと本年度に見出したキャリア制御方法を組み合わせて,性能を最大化させる。また現在,P型のコルーサイトと対になるN型材料を探索しており,対象物質の試料合成方法はほぼ確立したので,引き続き熱電特性を評価する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 2件) 産業財産権 (1件)
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 85 ページ: 014703/1-6
10.7566/JPSJ.85.014703
金属
巻: 86 ページ: 4-9
巻: 84 ページ: 103601/1-4
10.7566/JPSJ.84.103601
Physics Procedia
巻: Volume 75 ページ: 443-446
10.1016/j.phpro.2015.12.054
まてりあ
巻: 54 ページ: 335-338
http://doi.org/10.2320/materia.54.335