研究実績の概要 |
本研究では,テトラへドライトCu12Sb4S13における高い熱電能とガラス的な格子熱伝導率,および85 Kでの金属-半導体転移の原因の解明を目指す。また,硫化銅鉱物をベースにして高性能熱電物質を開発することを目的としている。本年度の研究実績の概要を以下に記す。 (1)Cu12Sb4S13のCu+をGe4+およびSn4+で置換したCu12-xMxSb4S13(x≦0.6; M=Ge,Sn)を作製した。置換によりホールキャリア密度が減少した結果,M = Ge, Snの665 Kでの無次元性能指数ZTはx=0の0.46からx=0.3-0.5の0.65まで40%も増大した。また,相転移がわずかな量のGe/Sn置換により消失すると判った。これは相転移の発現に電子構造が関係している可能性を示唆する。 (2)室温でのCu12Sb4S13(Sb)とCu12As4S13(As)およびそれらのZn置換系Cu10Zn2Sb4S13(ZnSb)とCu10Zn2As4S13(ZnAs)の結晶構造とフォノン構造を解析した。As→ZnAs→Sb→ZnSbの順に格子定数が増大するほど,Sが作る三角形中に位置するCuの面直方向への原子変位パラメータは減少し,振動特性エネルギーは増加する傾向があると判った。現在,このCuの振動と相転移や熱伝導率の関係を調べている。 (3)コルーサイトのSをSeで置換しSnを欠損させた系Cu26V2Sn6-zS32-xSexを作製した。x=4; z=0.25, 0.5の試料の665 KでのZTは0.65に達し,x=z=0よりも14%増加した。 (4)硫化銅鉱物の関連物質であるチオスピネルCu2TrTi3S8を合成し,660 Kでの出力因子が0.6 mW/K2mもあることを見出した。この高い出力因子のために,熱伝導率は2 W/Kmと高いものの,660 KでのZTは0.2に達した。
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