本研究は、電気二重層トランジスタにより作り出される強電界を用いて、様々な物質の熱電特性の電気的な制御を行うものである。電界効果を用いることで、熱電特性の制御だけではなく、優れた熱電特性を有する電子状態を実現することを目標とする。平成26年度は「ゼーベック係数を電気二重層の作る強電界により制御する手法」を確立した。平成27年度には、その手法を用いて、様々な半導体材料の研究を行った。最終年度である平成28年度は、これまでの流れを推し進め、近年非常に注目を集めている新規二次元材料の測定へ展開した。具体的には以下の研究を行った。 ①黒リン単結晶の熱電効果。劈開法を用いてバルクの黒リン単結晶から剥片を作り、電子線描画を用いて電界効果トランジスタデバイスを作製した。電界効果により、電子ドープ、ホールドープが可能となり、電圧印加により非常に幅広いキャリア濃度域において、系統的な熱電効果測定が可能となった。特に、電子状態計算を行い、実験と理論の比較を行うことにより、電界化での黒リンの優れた熱電特性が低次元性に由来することを示唆することが分かった。 ②鉄カルコゲナイドFeSeの熱電効果。近年、FeSeの電子物性が非常に注目を集めている。特に、FeSe極薄膜は超伝導転移温度が40~60K程度になることが知られるが、これはバルクFeSeの~8Kよりも非常に高い。このFeSe極薄膜は、大気中での試料の安定性のために物性測定が困難であったが、電気化学プロセスを利用したその場測定を行い、熱電効果の測定に成功した。このFeSe極薄膜における温度、キャリア濃度、膜厚依存性の系統的な研究は、今後の課題である。
今年度に行った研究成果は、国内学会・国際学会等様々な場所で発表した。また、上記①は論文として出版することができ、②については、論文雑誌に投稿中である。
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