研究課題/領域番号 |
26820300
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野々山 貴行 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 特任助教 (50709251)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人工軟骨 / 有機無機複合材料 / ハイドロゲル / ハイドロキシアパタイト |
研究実績の概要 |
軟骨、靭帯、腱等の結合組織は加齢と共にその機能が低下し、また怪我や疾病等で欠損すると自然治癒は困難である。これらを背景に人工代替材料の開発が望まれている。本研究室では、高靱性ハイドロゲルを開発し、その機械的特性は人工軟骨としての要求を満足している。しかしながら実際に生体内でゲルを長期間使用するには、ゲルを強固に固定することが必要不可欠である。一般的なハイドロゲルの重量の90%近くは水であり、殆ど水と同じ性質の表面を持つハイドロゲルの接着性は、あらゆる基材に対して極めて乏しい。「ゲルの接着」はゲルサイエンスにおいて解決すべき重要な課題の一つである。先に挙げた三つの結合組織は、片端もしくは両端が骨組織と結合していることから着想を得て、生体内で骨と直接結合する高靱性ハイドロゲルの創製を目的とした。特に平成26年度はハイドロキシアパタイト(HAp)とハイドロゲルの融合に関する基礎的知見を収集した。骨や歯の無機物主成分であるHApは、代謝によって骨組織と直接結合する性質を有する。ハイドロゲル表面及び内部にHApのナノ粒子を調製した。一般的にHApなどの無機物は脆い性質を持つが、柔軟なハイドロゲルと融合させることで、HApの化学的性質とハイドロゲルの柔軟性を併せ持つ骨接着性人工軟骨用ハイドロゲルを得た。ゲル中のHAp含有率は重量でわずか数%であるにも関わらず、ゲル最表面の化学的性質は市販の高密度HApプレートと同等であった一方で、ゲルの機械的特性(弾性率及び破壊に要するエネルギー)が向上した。また、マイクロスケールの粒子の観察において、ゲルの伸張に伴って、HAp粒子は配向しながら生成することが示され、骨組織と似た配向構造の形成も可能となった。今後は、この骨接着性ハイドロゲルが実際に生体内で骨組織へ強固に癒着するかを評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究室で開発された高靱性ダブルネットワークハイドロゲル(DNゲル)は、人工軟骨としての機械的強度を満足し、その応用が期待されているが、生体内におけるゲルの安定した固定化は未だ達成されておらず、無毒な高強度固定法が必要不可欠である。その達成のために、骨組織の無機物主成分であり骨伝導能を有するハイドロキシアパタイト(HAp)をDNゲルと融合させた新規有機無機融合材料「ソフトセラミックス」創成を目的として、平成26年度は「DNゲルとHApの融合に関する基礎的知見の収集及び製造法の確立」を行った。スルホン酸基を有するポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)とジメチルアクリルアミドをそれぞれ第一、第二網目としてDNゲルを調製した。得られた無色透明のDNゲルを塩化カルシウム及びリン酸水素二カリウム水溶液に交互に浸漬させることで、ゲルが白色に変化し、低結晶性HApが鉱化した。透過型電子顕微鏡の観察から、粒径は約600nmと見積もられ、ゲルネットワークのサイズ(数nm)よりも十分大きいことから、ゲルの網目に物理的に拘束されることで強固に結合していることが示された。このHAp/DNゲルは、HAp含有率が数%と極めて低いにも関わらず、ゼータ電位及び接触角から評価した表面の化学的性質は市販の高密度HAp焼結体とほぼ同等であった。また低含有率であっても、ゲルの弾性率及び破壊エネルギー増加に寄与し機械的強度が向上した一方で、ゲル本来の柔軟性は維持された。またHAp前駆溶液の濃度や浸漬回数を調整することで、HAp層の厚さや含有率を制御できた。最後にHAp鉱化時にDNゲルを延伸することでHApの配向を制御できた。以上から高靱性ゲルとHApの融合について、多くの基礎的知見を収集でき合目的的なサンプル調製が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度において、実用的な人工軟骨材料として、骨伝導性高靱性ハイドロゲルを創製し、その基礎的知見を収集した。今後は、①生体内へ埋入するために、欠損箇所や患者に合わせた合目的的なHAp/DNゲルの調製、②生体内におけるHAp/DNゲルの骨伝導性の評価と接着強度の評価、③生分解性高靱性ハイドロゲルの創成を行う。生体内に埋入する際、骨組織と接している箇所のみにHApをコーティングしたほうが望ましい。HApを選択的に鉱化させるために、ゲルをあらかじめマスキングすることでHApのパターニングをする。またHApが酸性で溶解することを利用し、DNゲル全面にHApをコートした後、不要な箇所を酸性のゲルでスタンプすることで、溶解させる二種類のHApパターニング技術の確立を目指す。また、実際にHAp/DNゲルの骨伝導性を評価するために、北海道大学医学部の協力を得て、ウサギの大腿骨にHAp/DNゲルを埋入する。具体的には、円柱形のDNゲルの側面にのみHApをコートしたサンプルを作成し、ウサギ大腿骨にDNゲルと同じサイズの穴を開け、埋入する。一定期間の後、大腿骨を取り出し、ステンレス製のロッドでHAp/DNゲルを押し込み、接着強度を測定する。最後に、生分解性の高靱性ハイドロゲル調製では、化学架橋を用いない物理架橋ゲルの創成を目指す。現在のDNゲルは架橋剤を用いて化学架橋しており生分解性を示さない。一方で、イオン結合、水素結合及び疎水性相互作用等の物理結合によるハイドロゲルは、生体内で徐々に代謝される。今回は、高濃度高分子電解質とHApの原料の塩から成るイオン結合性の物理架橋ハイドロゲル創成を行い、その機械的特性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
指導学生が大学から研究費を獲得し、そちらからも物品購入をしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究成果発表のための学会参加及び新規生分解性ゲル創製のための物品購入。
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