研究実績の概要 |
研究計画では「繰り返し耐久性試験」を実施する予定であったが、昨年度(平成26年度)の知見に基づき更に機能を強化させるため材料の繊維化を行った。繊維化を行う理由としては、衣服や防護服として使用することが可能であり、さらに部分的な被ばく箇所を個人で把握することが可能となる点にある。また、繊維型線量計は複雑な機械線量計とは異なるため、安価で大量生産が可能になると期待できる。 初年度(平成26年度)は、最適なフォトクロミック色素と紫外線蛍光体の選択に成功したが、放射線に対する感度は著しく低く、大型放射光施設(SPring-8)の放射光しか可視化できなかった[Int. J. Photoenergy, 2014, 2014, 236382で報告]。次年度(平成27年度)は、これらの材料に対して最適な高分子繊維材料の選定と評価を行い放射線に対する感度向上を検討した。 低放射線量を検知可能にするためには、フォトクロミック色素と繊維材料の相溶性の検討が不可欠である。検討の結果、ポリエステル系が最も適した繊維材料であると判明したため、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリ乳酸(PLA)が選定された。PETは溶融紡糸装置の仕様温度の都合上適用できなかった。そこでポリ乳酸(PLA)と紫外線蛍光体を混合し、ペレットを作製し溶融押出紡糸機を用いて繊維材料を得た。この繊維材料をフォトクロミック色素染色液に含浸させ繊維型放射線量計を作製した。作製された線量計は約7グレイ(シーベルト)で明瞭な色変化を起こした[Chem. Commun., 51. 2015, 11170で報告]。 本研究課題で得られた繊維型放射線量計の感度は自然被曝や原子力関係者が使用できるものではないが、この技術は学術的・社会的に非常に意義のある研究であると確信している。
|