研究課題/領域番号 |
26820306
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小濱 和之 大阪大学, 接合科学研究所, 助教 (00710287)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 炭化ケイ素 / SiC / Siペースト / 接合 / 焼結 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では航空機用部材として期待される炭化ケイ素(SiC)および関連の高融点炭化物の拡散接合を検討した。特にSiC繊維強化SiC複合セラミックス(SiC/SiC複合セラミックス)は、SiC繊維の特性が劣化しない1400℃以下での接合が必須である。その温度範囲での直接接合は困難なため、適切な中間材が必要となる。また、使用雰囲気での耐酸化性を考慮すると、表面に酸化被膜を形成するケイ素(Si)を多く含む中間材が必須と考えられ、主に下記のように単体Siを用いた接合法を検討した。 まず中間材に単結晶Si板を用い、放電プラズマ焼結(SPS)装置によるパルス通電加熱圧接によりSiC/SiC複合セラミックスの接合を試みた。その結果、1300~1400℃・10分程度の保持で低温接合が可能だった。しかしいずれの接合体も接合強度は非常に低く、接合部のSi板内部で脆性的に破壊した。 そこでSi中間材の強度向上のため、接合部にSiペーストを塗布する新規接合法の基礎検討を行った。被接合材にSiC焼結体を用い、Siペーストは種々の平均粒子径(約5~16μm)を有するSi粉末をポリエチレングリコール中に攪拌・分散して作製した。いずれのペーストを用いた場合も1300~1400℃・0~60分の保持で低温接合が可能だった。接合部ではSi粒子同士の結合(焼結)により多孔質Si中間層が形成されていた。いずれの接合体のせん断強度もSi板を用いた場合より高かった。また、Si粒子径が減少するほどSi中間層は緻密化し、接合体のせん断強度は増大した。一方、1400℃超の接合温度でSi粒子の溶融・凝固により接合させると非常に緻密なSi中間層が形成され、せん断試験では母材破断した。これらの結果および接合部微細組織の詳細観察を合わせ、Si中間層が緻密化するほどそれ自体の強度が向上するとともにSiC焼結体との接合面積が増加し、全体としての接合強度が著しく増大すると結論付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載したように、当初はSiCの接合の中間材にSi板を用いていたが、十分な接合強度が得られなかったため、接合面に中間材としてSiペーストを塗布する新規接合法を検討した。このように研究方針に若干修正はあったものの、本法により接合温度1400℃以下での低温接合が可能であることを示し、またSiペースト中のSi粒子径の低減などにより接合部のSi中間層を緻密化することで接合強度を向上させる指針を明らかにした。また、本法で得られた接合体のせん断強度は最大で母材のSiC焼結体の強度とほぼ同等まで向上したことから、基礎検討としては十分な接合強度が得られたと考えている。これらの結果から、当初計画に示した接合強度向上のためのプロセス条件の解明および接合機構の解明はおおむね達成されたと考えている。これらの知見に基づき、より母材強度の大きいSiC/SiC複合セラミックスの接合への応用展開も十分可能であると考えられ、今後は連携企業と共同研究契約を結んで研究成果を発展させる予定である。 一方、当初計画では、接合に用いる放電プラズマ焼結装置内で加熱されたグラファイト治具からカーボン蒸気が生じ、Si中間層と反応することで、Siがより耐熱・耐酸化性の高いSiCに化学変化することを期待していたが、本年度の研究ではそのような化学変化は観察されなかった。本法での接合中にはSiペースト中のポリエチレングリコールが蒸発し雰囲気中に拡散するため、これによりカーボン蒸気がSi粒子まで到達できないことなどが原因と考えられる。これに対する改善案として、Siペースト中に炭素(C)粒子等をあらかじめ混合しておき、接合中にSi粒子とC粒子の反応によりSiC中間層を形成させる方法などを検討中であり、耐熱・耐酸化性のさらなる向上が可能ではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果に基づき、さらなる接合強度向上のため、今後はSi粒子径の低減あるいは最適な粒子径分布(粗粒と細粒の組合せ等)の探索などを進め、より緻密なSi中間層の形成を目指す。また、SiC/SiC複合セラミックスへの応用展開および連携企業と共同研究契約を結んで高温強度や耐酸化性等の実用化実験を進める予定である。その際、SiC焼結体とSiC/SiC複合セラミックスの導電性の違いがパルス通電加熱による昇温速度等に差異を生じさせ接合強度が変化する可能性もあるため、金属と同等の導電性を有する炭化物セラミックス(炭化ジルコニウムなど)を用いた接合実験(すでに一部実施済)の結果との比較なども含めてその影響を検討する。 一方、Si粒子の溶融・凝固により接合強度が著しく向上した結果に基づき、Siの融点を降下させる添加元素の粉末をSiペースト中にあらかじめ混合しておくことなどにより、1400℃以下の接合温度でSi粒子の溶融・凝固により緻密なSi中間層を形成させる新規手法について基礎検討を行う。その際、Siと金属間化合物を形成しないことおよび接合温度における蒸気圧が比較的高いことを添加元素の選択指針とする(例えばアルミニウムなど)。これにより、接合中に溶融した中間材から添加元素のみが蒸発・除去され、Si中間層が等温凝固できるようにする。添加元素の組成や純度などを変化させ、添加元素が中間層内に残存しない条件やSi中間層の微細組織や接合強度に及ぼす影響を調査し、その効果の解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要に記載の通り、当初は中間材にSi板を用いたSiC/SiC複合セラミックスの接合実験を計画し遂行していたが、この方法では十分な接合強度を達成できなかった。このためSiペースト塗布による接合法の検討を新たに始めることになり、これに伴う資料収集や予備実験等を行う時間が長くなり、実験に使用する消耗品の購入や試料の分析等にかかる費用が当初計画より減ったため、翌年度へ繰り越しの助成金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように現在行っているSiペーストを用いた新規接合法の開発研究を引き続き遂行する。具体的には今後の研究の推進方策に記載したように、より緻密なSi中間層形成のための実験に必要な粒子径の小さいSi粉末の購入・製造や、SiC中間層を形成させるためのC粉末の購入、Si粉末の融点の降下に必要な種々の添加元素などの購入などの費用に充てる計画である。また、SiC/SiC複合セラミックスへの応用展開および連携企業と共同研究契約を結んでの実用化実験を進める予定であり、これに関する打ち合わせ旅費や試料の送料等を使用する。また、各種高融点炭化物セラミックスの拡散接合実験を通じてSPS装置を用いたパルス通電加熱圧接の機構を理解するため、これらの材料の購入費用等に充てる。
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