本研究は、金属ガラス膜の形成に対して、アンバランスドマグネトロンスパッタ(UBMS)法により、従来の真空プロセスにはないArイオンアシスト効果という新たなパラメーターを導入し、金属ガラス薄膜の新たな膜質制御技術を確立するものである。これまでの実験により、UBMS法で形成した金属ガラス膜には最大で約15at%のArが含有すること、Arを多量に含有した金属ガラス膜では熱特性や耐食性が向上すること見出している。本年度では、Ti-Cu-Zr-Hf-Ni-Si金属ガラス膜について、UBMS法で基板バイアス電圧を0~-300Vの範囲で変えた膜を作製し、熱ナノインプリント装置による過冷却液体領域での成形性の評価および透過型電子顕微鏡による構造解析を実施した。実験の結果、膜に含有されるAr量の増加に伴い、過冷却液体領域における熱ナノインプリント成形性の向上が認められた。熱ナノインプリント成形後の膜のX線回折と組成分析を実施した結果、成形による結晶化は起こっておらず、さらに、Arが膜中に成形前と同等量残存していることが分かった。次に、Arの含有による諸特性および成形性の向上とArの熱的安定性の根拠を解明するために、走査透過型電子顕微鏡による原子像観察と元素分析を実施した。その結果、ガラス構造中において、Ar原子は均一に分散しているのではく、数ナノメートルのクラスターとなって分散していることを見出した。この特異な構造が諸特性の向上および熱的安定性に寄与しているものと考えられる。
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