研究課題
錯体水素化物は従来燃料電池用の高密度水素貯蔵材料として注目されてきたが、近年新たに次世代全固体二次電池の電解質へ応用可能な高速イオン伝導材料としても期待されている。本研究では、高速イオン伝導を示す新たな錯体水素化物の創製、およびその伝導機構の解明を目的として取り組んでいる。今年度は籠状構造の水素化ホウ素錯イオン[BnHn]2-を有するNa系錯体水素化物Na2BnHnに注目して研究を行った。まず、結晶構造が既知であるNa2B12H12のナトリウムイオン伝導特性を評価した。次にNa2B10H10を合成し、その結晶構造、熱的安定性、ナトリウムイオン伝導特性について中性子回折・散乱、示差走査熱量分析、核磁気共鳴、交流インピーダンス法などを用いて系統的に評価した。Na2B12H12は255 ℃付近での単斜晶から立方晶への構造相転移することが報告されていたが、構造相転移に伴ってナトリウムイオン伝導率が2桁上昇し、約0.1 S/cmのナトリウム超イオン伝導を示すことがわかった。また、Na2B10H10もNa2B12H12と同様に約110 ℃で立方晶から単斜晶へと構造相転移することがわかった。立方晶構造では約0.01 S/cmのナトリウム超イオン伝導を示した。中性子回折・散乱、および核磁気共鳴実験から、Na2B12H12とNa2B10H10に共通して立方晶構造ではナトリウムサイトに空孔が生成するとともに、錯イオン[BnHn]2-の再配向回転頻度が10^11 1/s以上と非常に大きいことが判明した。この[BnHn]2-の再配向回転によりNa占有位置の自由度が増大し、それにより空孔が導入されると同時にナトリウムチャンネルを形成するため、ナトリウム超イオン伝導が発現したと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
実験計画では高速イオン伝導を示す新たな錯体水素化物の創製およびその伝導機構の解明を目標に掲げた。Na系錯体水素化物Na2BnHn(n=10, 12)での結晶構造、熱的安定性、ナトリウムイオン伝導特性を系統的に評価した結果、いずれも0.01 S/cm以上のナトリウム超イオン伝導を示すNa2B12H12とNa2B10H10を得るに至った。また、籠状錯イオン[BnHn]2-の高速再配向回転がナトリウムイオンの伝導性を促進するという、新たな伝導機構を示唆する結果が得られている。総合的に鑑みて、概ね計画通りに研究を進めることができている。
Na2B12H12とNa2B10H10の熱的安定性をより詳細に評価し、融解および水素放出とナトリウムイオン伝導特性との相関を明らかにする。また、Mg2+陽イオンと [BH4]-、[NH2]-、[BnHn]2-などの錯イオンで構成された錯体水素化物を合成し、多価イオン伝導体としての材料開発を進める。
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