研究課題
水素は窒素や酸素、フッ素などの典型的な陰性元素よりも遷移金属元素に近い電気陰性度を有する。そのため、遷移金属を含む化合物において、これらの陰性元素が通常は陰イオンとして存在するのに対し、水素はイオン結合(ヒドリド、プロトン)に加えて金属結合や共有結合など様々な凝集性を示す。本研究では、多数の水素が遷移金属と共有結合した錯イオンを含み、多様な水素化物の中でも特に水素を高密度に含む錯体水素化物に着目し、その化学結合形成メカニズムの解明とそれにもとづく高密度水素化物の設計指針構築を進めている。そして、これまで経験則に基づいて錯体水素化物を形成しないと除外されてきた未開拓組成において、さらに水素を高密度に含む錯体水素化物を合成することを目的とする。26年度は、これまで水素との親和性が極めて低いとされてきた第6族元素のクロムによる錯イオン形成の可能性を理論的に考察し、水素がD5hの対称性(双五角錐状)にてクロムに7配位するとき、配位子場効果によって水素-クロム間にσ結合が形成されることを明らかにした。また、第一原理計算を用い、特異な水素7配位の錯イオン[CrH7]5-を含む錯体水素化物Mg3CrH8が実際に合成可能であると予測した。以上の理論予測を受け、クロムとマグネシウム水素化物の混合粉末を5万気圧700℃の水素流体中にて4時間保持し、予測された錯体水素化物を合成、これまでに報告のない第6族元素による錯イオン形成を初めて実証した。本成果により、これまで第7族以降に限られていた錯イオン形成元素に第6族元素も含まれることが明らかとなった。有効核電荷減少に対する原子サイズの増加傾向に起因し、一般に遷移金属の原子番号が減少する程、一原子に配位可能な水素数は増加する。第6族元素による錯イオン形成が実証されたことにより、従来よりも水素を高密度に含む新たな材料合成の可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
26年度の研究計画では、特異な水素配位をもつ錯体水素化物における化学結合形成メカニズムの解明と、材料中水素のさらなる高密度化のための指針構築を目標に掲げた。3d遷移金属ではこれまで報告のない水素7配位の錯イオンを含む新たな錯体水素化物の合成に成功し、理論と実験の両面からその結合様式を明らかにすること、また第6族元素を主相とする錯体水素化物において、さらに高密度に水素を含む材料合成の可能性を示すことで、当初の目標を順調に達成できていると判断した。
本年度は得られた指針に基づき、第6族元素を主相とする錯体水素化物において8配位や9配位の錯イオンを含む新たな錯体水素化物を探索する。
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