研究課題
水素は周期表一番左上に位置するにもかかわらず、全元素の中でおよそ中間的な電気陰性度を持つ特異な元素であり、他の元素と様々な化学結合を形成することが可能である。水素の形成する多様な電子状態に起因し、水素化物においては多彩な物性・機能性が発現する。特に最近、超高圧下に置かれた硫化水素が超伝導転移の高温記録を更新し、高密度水素化物に対する関心が急速に高まっている。そうした背景の下、本研究では遷移金属錯体水素化物に着目し、それらの形成機構解明とさらなる高水素密度化に取り組んだ。遷移金属錯体水素化物は、遷移金属に多数の水素が共有結合した錯イオン、およびそれらを電子供与により安定化させる陽イオンからなる代表的な高密度水素化物である。一般に、錯イオンの水素配位数は中心となる遷移金属の原子サイズと相関し、周期表左側に位置する大きな元素ほど高水素配位の錯イオンを形成することが知られるが、長年に亘る探索研究の結果、3族から6族元素は錯イオンを形成しないと結論されてきた。まず初年度は、6族元素クロムによる錯イオン形成の実証に取り組んだ。理論計算により、7つの水素が双五角錐状にクロムに配位したとき、水素-クロム間に強いσ結合が形成されることを明らかにするとともに、理論予測された水素7配位の錯イオンを含む錯体水素化物の合成に成功した。本成果は、これまで未開拓であった3族から6族元素が、従来よりも高水素配位の錯イオンを形成する可能性を強く示唆している。最終年度は、昨年度までに得られた指針にもとづき、6族元素モリブデンによるさらなる高水素配位の錯イオン形成に取り組み、理論・実験の両面から9つの水素がモリブデンに配位した新たな錯イオンの形成を強く示唆する結果を得た。
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