研究課題/領域番号 |
26820317
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
光原 昌寿 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (10514218)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高Crフェライト系耐熱鋼 / クリープ変形 / 強化機構 / ラスマルテンサイト / M23C6炭化物 / 結晶粒界 / 電子顕微鏡 / 結晶方位解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、高Crフェライト鋼における転位強化と析出強化の相乗効果のメカニズムを解明することを第一の目的とする。そのために、マルテンサイト組織中のどの部分に位置するどの種類の析出物がどのような機構でラス組織を安定化するのか、また、その析出物のクリープ変形中の成長とそれによる鋼の弱化挙動について系統的な調査を行う。それらの結果から、高Crフェライト鋼の新規的なクリープ強化理論を構築することが本研究の最終目標である。。平成26年度では、「1.高Crフェライト鋼におけるM23C6析出状態の定量評価」と「2.クリープ変形に伴うM23C6の析出状態変化」について検討を行った。具体的には、9Cr系耐熱鋼と12Cr系耐熱鋼の初期材およびクリープ中断材に対して、粒界上のM23C6炭化物のサイズ・化学成分・粒界被覆率を走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡および結晶方位解析を組み合わせた微細構造解析により定量評価した。その結果から、変形前の初期材において、粒界性格の違いによりM23C6炭化物の分散状態に明確な違いがあること、大角粒界上では小角粒界上に比べて被覆率が高く、粒子サイズが大きく、Crに富んだ組成になっていることがわかった。また、クリープ変形のM23C6炭化物の粗大化が、大角粒界上において顕著であることもわかった。さらに、平成27年度計画の一部である「3.M23C6によるラス組織の熱的安定性向上メカニズムの解明と高強度化への指針提示」についても実験を進めており、その中で、各粒界上のM23C6炭化物によって生じる粒界移動に対するピンニング力をZenerの式に基づき算出したところ、大角粒界におけるピンニング力は小角粒界のそれに比べて2倍以上大きいものの、クリープ変形中に起こる粗大化によって徐々に減少する傾向にあることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載のとおり、高Crフェライト鋼の各粒界において、その粒界性格とM23C6炭化物分散状態の関係性を明らかにすることができており、当該年度の計画は概ね達成されている。現在実施しているクリープ破断試験はいずれも6000時間を越えて加速域に到達しており、来年度中には当初計画で観察予定の全ての試料が用意できる見込みである。また、当初、平成27年度の計画としたM23C6によるラス組織の熱的安定性向上メカニズムの解明についても、すでに一部に着手しており成果を得ている。したがって、自己評価としては、「(2)おおむね順調に進展している」が妥当であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度成果から、ラスマルテンサイト中の各種粒界とM23C6炭化物の分散状態には明らかな相間があること、さらにクリープ変形中の炭化物の成長挙動が粒界性格に強く依存することが明確に示された。H27年度では、更にクリープ変形が進行した場合の組織変化について、H26年度に確立した組織観察手法を用いてデータの拡充を行うとともに、当初の計画通り「3.M23C6によるラス組織の熱的安定性向上メカニズムの解明と高強度化への指針提示」について研究を進める。具体的には、M23C6炭化物による各粒界・境界移動の抑制力やそれに起因した強化を具体的数値とともに評価し、各粒界上M23C6炭化物のそれぞれの役割とその重要度について明確にする。また、クリープ試験材についてマイクロビッカース試験やナノインデンテーション試験による硬度試験、走査電子顕微鏡内での結晶方位解析、透過電子顕微鏡を用いた転位密度測定などからラスの優先的回復サイトを特定し、先のM23C6炭化物分散状態・成長挙動評価の妥当性について検証する。硬度試験では組織の軟化、結晶方位解析では小角粒界長さの減少、透過電子顕微鏡観察では転位密度の低下によりラスの回復を検知できる。以上の結果から、ラス組織による転位強化と粒界上M23C6による析出強化の相乗効果の原理原則を解明する。また、その様式をモデル化することで本研究を総括し、それを基に高Crフェライト鋼の新たなクリープ強化理論について提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
12Crフェライト系耐熱鋼のクリープ試験材作製のため、現在、5000時間のクリープ中断試験と想定破断時間1万時間程度のクリープ破断試験を試験請負企業に依頼して実施中である。当初これらの試験は平成26年度中に一部終了する予定であり、そのため直接経費「その他」に試験外注費を計上していたが、試験条件の選定、試験材の準備・加工等に時間を要したため、平成27年度まで試験を継続して行う必要が生じた。そのため、外注費を次年度使用額として繰り越して使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額のほとんどは、実施中のクリープ試験の外注費として利用する。その他の経費に関しては当初計画から大きな変更はない。
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