研究課題/領域番号 |
26820325
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大野 直子 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40512489)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ODS鋼 / ナノ酸化物粒子 / 析出 / 微細組織 |
研究実績の概要 |
原子炉用燃料被覆管材として開発されているFe基酸化物分散強化(ODS)合金はFe合金粉末とY2O3等の酸化物粉末をメカニカルアロイング(MA)処理し、焼結によって数nmサイズの酸化物を合金内に緻密に分散させることで、優れた高温強度を発揮する。本研究ではODS鋼の特性向上のための製造プロセス確立に向けて、焼結の昇温過程における酸化物粒子の析出過程を明らかにすることを目的としている。 H26年度はMA処理後のFe合金組織変化と酸化物粒子析出の関係について調査した。現象を単純化する目的でα-γ変態しないフェライト系の組成Fe-15Cr-2W(-0.2Ti)-0.35Y2O3を基本とし、原料粉末にMA処理を施し、MA処理後の粉末について真空炉中で600℃~1150℃, 4hの熱処理を施したものを試料とした。これら試料をSPring-8の放射光を用いたX線回折(XRD)と小角散乱(SAXS), 東北大金研大洗研究施設の3次元アトムプローブ(3DAP) , 北大のTEMを用いて分析した。 XRDから、700℃以上の熱処理で酸化物粒子が形成することが分かったが、SAXSからは、600℃以上の全ての試料において数nmの粒子が存在することが明らかになった。TEM・3DAPから、XRDで酸化物が検出されなかった700℃以下の温度においては、MA処理で導入された高密度の欠陥へのY, Cr, Ti偏在が明らかとなった。しかしOはこれら金属元素のように欠陥へ凝集してはいなかった。以上から、ODS鋼の酸化物粒子析出は、酸化物粒子を形成する金属元素(Y, Ti)が元々偏在するところに酸化反応が加わることで起きると考えることができる。本研究で得られた結果は、均一な母相の中で原子が拡散して析出の核形成をする従来の常識的な析出過程とは異なり、析出という概念に新たな知見をもたらすものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微細組織観察については、当初予定していた実験をほぼ終了することができた。実験から酸化物粒子の析出開始温度・析出した酸化物粒子の結晶構造・平均サイズ・母相の組織が明らかになったので、実験によって明らかにする項目については概ね目標に到達していると言える。 酸化物粒子が検出された700℃の微細組織は、MA処理後に形成される微結晶と一時再結晶組織の混合組織で、双方の結晶粒に酸化物粒子が存在していることが分かった。600℃~700℃の観察結果より、再結晶前の微結晶内に緻密に分布する欠陥(原子配列の乱れた部分)に、先に金属元素が凝集し、その後凝集した金属が酸化することで酸化物粒子が形成される可能性が考えられる。このような状況では、析出の核形成エネルギーが酸化物粒子-母相の界面エネルギーによって表わされない可能性、また界面エネルギーが母相の結晶構造と酸化物粒子の結晶構造の差によって単純に表わされないことが考えられる。具体的には、酸化物の形成自由エネルギーが支配的となり、完全な母相中に酸化物粒子が析出するよりも、遥かに低いエネルギーで析出が起きると考えられる。 研究計画策定時の予測と異なる結果が明らかとなったため、この部分を明らかにするために、H27年度以降の研究方針の一部変更を必要とする。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度の結果を踏まえ、簡単な界面エネルギーの計算を行い終了する予定であった当初の計画を変更し、H27年度は酸化物粒子の析出初期挙動をより詳細に把握する方針に切り替える。 本研究の目的である酸化物粒子析出モデルの構築の中で、H27年度は酸化物粒子の析出に際して一番影響するエネルギーを結論付けることを目標とする。具体的には、ベースとなる母相の合金組成をH26年度と同様のFe-15Cr-2Wとし、Y2O3, Y2Ti2O7, Y2Zr2O7, YAlO3などの異なる酸化物が析出するように添加元素を意図的に変化させた試料を作製する。XRDによる酸化物ピークの検出をより容易に行うことを目的として、酸化物粉末添加量を10倍にした粉末を準備し、それぞれの酸化物粒子について昇温過程における析出開始温度を調査する。これらは酸化物の形成エネルギーが析出に及ぼす影響を調査するために行う。また、同時に析出時の母相の変化をTEMによって観察することで、酸化物粒子-母相の界面エネルギーと析出の関係ついてもH26年に引き続き検討する。 また、母相の結晶構造変化が酸化物粒子成長に及ぼす影響を検討するため、α-γ変態をするFe-9Cr系の試料も作製し、Fe-15Cr系の試料と共に観察を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度の予算枠内に収まるように、消耗品に対する本研究費からの支出を最小限に留めたため。例えば、本研究の試料作製においては、H26年度は研究室に予めストックされていた粉末を流用することで対応した。
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次年度使用額の使用計画 |
原料粉末の一部が底を尽きているため、粉末の購入に使用する。
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