研究実績の概要 |
本研究ではFe基酸化物分散強化(ODS)合金の酸化物粒子析出過程を明らかにすることを目的としている。H27年度は酸化物粒子の析出初期挙動をより詳細に把握するため、Fe-15Cr-2W合金をベースとし、Y2O3, Y2Ti2O7, Y2Zr2O7, YAlO3などの異なる酸化物が析出するように添加元素を意図的に変化させた (Y2O3のみ、Ti添加、Al添加、Zr添加) 合金を対象とした。メカニカルアロイング(MA)処理後の各粉末について真空炉中で500℃~1150℃, 4hの熱処理を施し、これら試料をSPring-8の放射光を用いたX線回折(XRD)と小角散乱(SAXS), 東北大金研大洗研究施設の3次元アトムプローブ(3DAP) , 北大のTEMを用いて分析した。 XRDからは添加元素の種類によって析出開始温度が異なること、特にZrを添加した試料について他の試料よりも遥かに低い温度(500℃)からY2Zr2O7の析出が見られることが分かった。SAXSからは全ての熱処理試料において数nm~十数nmの粒子が確認された。低温熱処理試料の3DAPまたはTEM分析から、Zr, Ti添加試料中のZr, Tiが粒子状に凝集していたのに対し、Alの偏析は見られないことが分かった。酸化物粒子形成自由エネルギー(⊿Gp)は、酸化物生成エネルギー(⊿Gf)、粒子/マトリクスの弾性歪エネルギー(⊿Gel)、及び粒子/マトリクス界面エネルギー(⊿Gin)の和で表わされる。700℃における⊿Gp をY2O3, Y2Ti2O7, Y2Zr2O7, YAlO3についてそれぞれ計算した結果、析出の臨界半径(r)及び活性化エネルギー(⊿Gpmax)はY2Zr2O7< Y2O3< Y2Ti2O7< YAlO3の順に小さくなり、本研究の実験結果から見られた析出の傾向と合致することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度までの成果を踏まえ、H28年度は以下の項目について検討を行う。 1. 析出初期の、クラスタが酸化物になる過程を理解する。自由エネルギー計算による析出核形成の予測については、H27年度にほぼ達成できたと言える。H28年度は更に、低温熱処理におけるクラスタが酸化物になる過程について詳細な調査を行う。H27年と同様Y2O3, Y2Ti2O7, Y2Zr2O7, YAlO3などの異なる酸化物が析出するように添加元素を意図的に変化させた試料を作製し、XAFS法によって低温熱処理試料に存在する「酸化物としての構造が同定できないナノ粒子(ナノクラスター)」の化学状態を観測することで、それぞれのナノクラスターが酸化物になる過程を明らかにする。 2. 酸化物粒子の成長に対して母相の結晶構造変化が及ぼす影響を明らかにする。H27年度はFe-9Cr系の系統的に解析が可能なデータを得ることが出来なかった。しかし、Fe-15Cr-2W系についてはSAXSによる粒子サイズ解析を同時に行ってきており、0.35Y2O3(H26年実施)、3.5Y2O3(H27年実施)のいずれにおいても、酸化物粒子の成長は900℃以上において顕著になることが分かっている。900℃はFe-9Cr系ODS鋼のα-γ変態温度域に属するため、これ以上の温度において熱処理を施した酸化物粒子のサイズを調査しFe-15Cr-2W系の粒子サイズと比較することで、α-γ変態によるマトリクスの結晶構造変化が酸化物粒子の成長に及ぼす影響を定量的に評価することができる。H28年度は試料へのZr混入を防ぐため、熱処理は真空炉で行う。 3. H28年度は酸化物粒子の析出・成長についてこれまでの調査結果を纏め、代表的な組成を幾つか選び、Yのクラスタリングが始まる600℃程度から一般的な焼結温度である1150℃までのシナリオを定性的・定量的に記述する。
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