メカノケミカル反応(以後、“MC反応”)は、機械的外力(以後、“力”と表記)によって形成される、反応性の高い新生面で誘起される反応であり、モノづくりに広く応用されている。しかし、その反応機構、すなわち、新生面や生成物の形成過程や構造に及ぼす力の作用は、定性的な理解に留まる。本研究では、MC反応の定量的な理解を目指し、摩擦によるMC反応装置を開発し、炭素繊維に適用した。 粉砕で反応を誘起する場合、反応を誘起する力の実測と、作用した場所の特定が困難である。このことが、反応を解明する上での障害であった。摩擦による反応誘起法は、力を時間的、空間的に制御・実測できる。また、新生面を摩擦面に限定して形成できるため、新生面や生成物だけを抽出しての分析が可能となる。開発した装置を用いて、炭素繊維同士を摩擦させることによって繊維表面にせん断力を作用させ、MC反応を誘起した。せん断力は、装置に設けた歪ゲージによって、制御・実測された。得られた繊維を走査型電子顕微鏡・ラマン分光法・X線光電子分光法で分析・評価した結果、せん断力による繊維の構造変化は、繊維の極表面(数nm以下)に限定され、COOH基等の大気由来の官能基が繊維表面に修飾されることを明らかにした。 また、親水性の官能基に選択的に作用し、析出物を生じる疑似体液中に、得られた繊維を浸漬し、析出物を観察したところ、摩擦を受けた箇所のみに析出物が生成した。このことから、本装置によってMC反応による生成物を摩擦面に限定して形成されることを確認した。 さらに、繊維の接触面積を計測し、MC反応による官能基修飾に至るに必要なせん断応力を見積もった。その結果、80 MPaでは殆ど官能基は修飾されず、300 MPa以上で官能基が修飾されることを見出した。以上より、MC反応による反応生成物にせん断力が及ぼす作用を、定量的に解明することに成功した。
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