既往研究として,「ゼオライトの高い水熱安定性」と「大面積への容易な製膜」の両立を目指したゼオライトナノブロック膜を考案している.本研究では,既往研究の課題であった製膜溶液の安定性改善を目指し,新たに見出した易分解性SAPO-34と名づけたリン酸系ゼオライトを原料とした新規なゼオライトナノブロック膜の開発を最終目標とし,次の3項目,①易分解性SAPO-34の骨格組成分析による耐酸性の考察,②溶解後のSAPO-34の構造解析,③平板支持体(1 cm×1 cm)への製膜法を確立し,SAPO-34を原料としたゼオライトナノブロック膜のガス透過特性を評価に取り組んだ. ICPによる元素分析より,易分解性SAPO-34はAl含有量が少ないことが判り,これが耐酸性に影響を及ぼしていることが確認できた.また,溶解前後の固体NMR分析より,溶解後のAl原子は溶解前と同じ構造を維持しており,SAPO-34骨格が部分的に残っていることが確認できた.一方,Si原子はSi(OAl)4構造からSi(OSi)4構造へと変化しており,骨格から外れたSiを含む骨格パーツ同士が結合し,シリカとして存在することが判った.平板支持体への膜作製では,SAPO-34のみでは緻密な膜が得られなかった.そこで,SAPO-34と既往研究で用いたA型ゼオライトの混合物を原料として用いることで,水素/プロパン分離係数130の膜の作製に成功した.洗浄処理により水溶性塩を取り除いた膜では分離性能が得られなかったことから,今回作製した膜の微細構造は,SAPO-34由来のゼオライトナノブロックとシリカで構成されるネットワークがガスの透過経路となり,大きな欠陥を水溶性塩が塞いでいるものと考えられる.
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