研究課題/領域番号 |
26820336
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大橋 秀伯 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (00541179)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子水溶液系 / 分子拡散性 / リニアポリマー / グラフトポリマー / 水分子透過 / 湿度依存性 / プラズマグラフト重合 |
研究実績の概要 |
高分子水溶液系における分子拡散性を評価する手法の一つとして膜を用いた測定法があげられる。その膜の作成のために、対象となるリニアポリマーを多孔質膜基材の細孔中に固定化する汎用的手法が必要である。プラズマグラフト重合法は、基材にダメージを与えずに、リニアポリマーを固定できる手法であるが、固定化できるリニアポリマーの種類が限られているという問題点を持っており、これを解決できる手法が期待される。 本研究ではまず、プラズマグラフト重合法によりエポキシ基を持つポリマーをグラフト固定化し、このエポキシ基を足がかりとしてアジド基を固定した。一方、末端にプロパギル基を持つリニアポリマーをATRP法によって合成し、アジド基とプロパギル基のクリック反応により、高効率で任意のリニアポリマーを固定化できる手法の基礎を築いた。 さらに、プラズマグラフト重合で作成したリニアポリマー固定膜を用いて、高分子水溶液中の水分子の透過性を評価した。精密な評価を可能にするため、精密加湿装置・精密露点計を装備することで、膜への供給ガスの湿度・温度の制御と測定を高精度で行える測定システムの構築を行った。本システムを用いて各湿度での水分子透過性を測定したところ、スルホン酸基を側鎖として持つリニアポリマーグラフト膜において、相対湿度40%にわたって水透過性が3桁も変化する結果を得た。この顕著な湿度依存性はポリマー水溶液中の水構造の変化に由来することが予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、逆相クロマトグラフィー法とキャピラリーカラムを用いたポリマー中の分子拡散性の測定手法を開発する予定であったが、より多くの研究者が移動物性を取得できうる手法の開発がより急務であると判断し、より汎用的な膜法による移動物性取得法の開発を目指して本研究を遂行した。 膜法においては、リニアポリマー固定膜をより汎用的に作成するための手法を構築した。リニアポリマーのみでは一部のポリマーを除いて製膜が困難な場合が多く、そういった材料においての移動物性の取得は困難であることから、多孔質膜中へのリニアポリマーのグラフト固定は重要な課題である。固定できるポリマーの制限を取り除くことで、汎用的な移動物性評価手法としての道が拓けるが、今年度はクリック反応を用いた信頼性の高い手法開発により、充分な貢献ができたものと考えている。 また、水蒸気としての水分子は潜熱を内包するエネルギー媒体としてその重要性が着目されはじめているが、高分子中における水分子の移動特性の活量依存性は重要な物性であるにも関わらず、ほとんど注目がされてこなかった。今回、精密加湿測定系を立ち上げることで、高分子水溶液中の水透過性が40%程度の湿度(活量)変化に伴い、3桁も変化しうることが示されたが、この知見を見出したのは初めてのことであり、実用上においても非常に重要な知見となりうると考えている。特に低湿度での充分な水透過性を持つ膜の開発は、全湿度域での水蒸気回収を目指すために、欠かすことが出来ない。 以上のような知見を得られたことから、今年度は当初の計画以上に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では、どのような官能基を持つリニアポリマーが水分子の拡散・移動に有利なのかがまだわかっていない。そこで、本年度確立したリニアポリマー固定化手法を活用して、中性・弱イオン性・強イオン性など様々な官能基を持つ水溶性リニアポリマーをグラフト固定化した膜の作成を行い、これらに対して、水透過性の評価を行っていくことで、水移動に有利な分子構造を持つ高分子・膜の探索を行う。 さらに本年度得られた、水透過性の湿度への指数的な依存性の現象の解析を行っていく。無孔膜の分子透過は溶解拡散機構により説明されるが、水分子透過も同様に説明される。この機構においては、透過性が平衡物性の溶解性と非平衡物性(移動物性)の拡散性に切り分けられることを利用して、どちらがより大きく拡散性に寄与しているのかの解析を行う。透過性は本年度の成果で既に得られており、溶解性を水分収着性精密評価装置によって取得することで、切り分けが可能である。これにより、溶解性と拡散性のいずれが性能に大きく効いているのかの知見を得て、低湿度でも高水蒸気選択性を示す高性能膜開発のための知見を得る。 さらに、上記の指数的依存性の原因をミクロなレベルで調べるために、膜内(ポリマー内)の水の構造をFT-IR分析によって精査する。既報によれば、ポリマーの中の水の構造は第一水和層・第二水和層などの構造に別れており、分光学的手法での解析が可能である。その手法を用いて、水構造と性能の相関を見出し、高性能膜開発のための知見に活かす。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、逆相クロマトグラフィー法とキャピラリーカラムを用いたポリマー中の分子拡散性の測定手法を開発する予定であったが、より多くの研究者が移動物性を取得できうる手法の開発がより急務であると判断し、より汎用的な膜法による移動物性取得法の開発を目指して本研究を遂行した。 このため、主にガスクロマトグラフィー装置・キャピラリーカラムの購入を見送ることにしたため、繰越額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
膜法による結果が出ているため、移動物性取得実験を加速させうる機器を充実させる。具体的には溶液系・気体系の拡散実験装置・透過実験装置などを導入することで実験の利便化に加えてさらなる移動物性取得を行う予定にしている。
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