高分子水溶液系における分子拡散性は、生体分子センサや水蒸気回収デバイスなど、数多くのデバイスで重要な役割を果たす重要な物性であるが、充分な知見がそろっているとは言えない。この一つの要因は、汎用性を持つ拡散性取得手法が充分に確立されていないことに起因する。本研究においては、リニアポリマー固定化膜による分子拡散性評価手法の確立を行い、実際に分子拡散性取得のデモンストレーションを行うことで、より広い研究現場で拡散性を得るための基礎を構築する。
前年度までに、リニアポリマー固定膜を用いて、高分子中の水分子の透過・溶解・拡散性の評価を行った。このとき当初予想していなかった、拡散性の大きな湿度依存性が観察された。これを受け、湿度依存性を正確に測定可能なシステムの構築を行い、スルホン酸基を側鎖に持つリニアポリマー固定化膜において、溶解性はほとんど湿度依存しないのに対し、拡散性は相対湿度40%にわたって3桁も変化する結果を得た。これは、水蒸気回収デバイス等にも大きな影響を与えうる結果であり、そのメカニズムの解明が必要と判断した。
そこで、最終年度においてはメカニズム解明に向けて、膜内の水分子の存在状態をin-situ測定可能な装置・手法の開発を行った。温度・湿度を精密に制御し、膜中の水活量を規定した状態で赤外分光を行うチャンバーを開発し、水分子の存在状態に応じたピークを観察、解析した。その結果、高湿度では、運動性の高い自由水の含有量が優先的に増加することを見出し、自由水経路のパーコレーションが生じることで、高湿度での高い水拡散性が実現されることを発見した。逆に低湿度では自由水の割合が少なくなり、クラスター間のパーコレーションが切れることで、水の膜全体にわたる運動が阻害され、拡散性が大幅に落ちることを見出した。すなわち高分子水溶液系における水拡散性の大きな湿度依存性・メカニズムを知見として得た。
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