平成28年度はシリコン(Si)粒子を原料溶液に加えた液パルスインジェクション(LPI)法により炭素複合材料を作製し、充放電特性の評価を行った。Si粒子はカーボンナノファイバー(CNF)とナノレベルでの複合化が期待できるナノ粒子(粒径約80 nm)と安価なマイクロ粒子(粒径約5 μm)の二種類を用いた。これらをCNFの原料であるベンゼン、フェロセン、チオフェンと混合した溶液を原料としたLPI法によりSi/CNF複合体を製造した。 Siナノ粒子を用いた試料はSEM観察より、Siナノ粒子とCNFが均一に複合化している様子を確認できた。この複合体は結晶性Siを77 wt%含んでおり、複合体としての理論容量は2800 mAh/gであった。金属Liを対極としたハーフセルで充放電測定により、複合体は1900 mAh/gの高容量を示し、300サイクル充放電を繰り返してもほとんど容量が低下せず、サイクル特性も優れていた。Siナノ粒子とCNFの長時間の湿式混合によりLPI法と同程度に均一な複合化は可能であったが、この物理混合体では1100 mAh/g程度の容量しか得られなかった。この原因はSiナノ粒子への導電パスが不十分であるためと予想され、LPI法ではCNF以外にもSi表面に薄い炭素層が析出するため、Siへの導電パスが十分に確保できると考えられる。 Siマイクロ粒子を原料とした試料はSi粒子表面にCNFがまとわりついた構造をしており、LPI法を用いることでサイズの大きく異なる物質同士でも均一に複合化できることが判明した。マイクロサイズのSi粒子は充放電サイクルによる容量低下が大きく、5サイクル程度でほとんど容量を失ってしまう。ところが、本手法でCNFと複合化した試料は5サイクル後にも70%程度の容量を保持していた。このため、CNFと均一に複合化したことでSiへの導電パスが増加し、そのままでは利用が難しいSiマイクロ粒子も負極材料として活用できる可能性を示すことができた。
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