研究課題/領域番号 |
26820345
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
工藤 真二 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (70588889)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイオマス / セルロース / 熱分解 / 触媒 / イオン液体 |
研究実績の概要 |
バイオマスの主要構成成分であるセルロースについて、これを迅速かつ簡便な手法である熱分解により分解し、生成する揮発性生成物(バイオオイル)を気相接触改質して有用化合物を製造することを目的とする。研究実施内容は、揮発性生物を統合的にレボグルコセノンに変換する手法の開発、およびレボグルコセノンを有用化合物に変換する手法の開発、というふたつの項目に分けられる。 ひとつ目の課題に対し、ある種のイオン液体を担持した触媒を新規に開発した。同触媒を用いたセルロース熱分解揮発性生成物の改質により、原料中のレボグルコサンをはじめとする無水糖が分子内脱水されてレボグルコセノンに変換されることが明らかになった。既往のレボグルコセノン製造法では、原料セルロースの前処理あるいは遅速熱分解など、手間(時間)がかかるステップが必ず必要であったのに対し、本研究で開発した手法はそれらを必要としない効率的な製造法であるといえる。 イオン液体担持触媒は、セルロースをイオン液体と混合、熱分解して調製した。この際、担体として生成するチャーが細孔性に富むことが明らかになった。セルロースを低温(350℃程度)で単純に熱分解しても通常ミクロ細孔はほぼ形成しないが、上記のイオン液体と混合して熱分解した場合には比表面積は800 m2/g以上であった。この結果は本研究の主旨と直接的な関係はないが、低温での高比表面積チャーの新たな調製法として、付随して得られた成果である。 次の課題に対しては、貴金属触媒を使ったレボグルコセノンの水添試験を行った。Pd/Al2O3あるいはPt/Al2O3触媒を用いたとき、レボグルコセノンのC=C二重結合が水添され、ジヒドロレボグルコセノンが生成することが明らかになった。ジヒドロレボグルコセノンは極性非プロトン性溶剤として高い性能を示す、バイオマス由来のグリーン溶剤として注目される化合物である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始段階で設定した研究項目は、次年度に予定していたものも含めてほぼすべて実施した。さらに、研究実績の概要の項でも記したように、高比表面積チャーの調製に関する研究結果は、想定を超える成果ということができる。 一方、具体的な研究目標のひとつには、レボグルコセノンの製造に関してその収率目標を炭素基準で70%と掲げていた。しかしながら、これまでに得られた最大収率は30%である。このため研究の達成度は「おおむね順調に進展している」とした。 レボグルコセノンからの有用化合物製造に関して、ターゲットとなる生成物は単環芳香族および長鎖アルカン、アルコールであった。今年度の研究でレボグルコセノンの改質により製造したのはジヒドロレボグルコセノンであり、目的としていたそれらの化合物はできていない。しかしながら、申請書に記載したとおり、目的とする物質を製造できなかった場合であってもその他の有用化合物を作ることができれば本研究の学術的な意義には影響しない。これまで報告例のないジヒドロレボグルコセノンを効率的に製造できる手法を提案できたことで、バルクケミカルズを作ることを目的としていた当初の成果目標と比べるとむしろ学術的な意義の深い研究内容になったのではないかと考える。
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今後の研究の推進方策 |
レボグルコセノンの収率が70%-Cに満たなかった原因として、揮発性生物中の主要成分であるレボグルコサンはほぼ完全にレボグルコセノンに変換されたが、その他の無水糖オリゴマーをはじめとする重質な成分がレボグルコセノンに変換されるどころかコークとして触媒上に析出してしまったことが挙げられる。コーク析出を防ぎ、かつレボグルコセノン収率を向上するためには、触媒にグリコシド結合の開裂に対する作用を付与することが重要と考えられる。次年度の研究では、このことを考慮した触媒調製をはじめに行う予定である。次に、レボグルコセノンからジヒドロレボグルコセノンを製造する過程においても、触媒の性能上、レボグルコセノンの一部は分解してしまい、ジヒドロレボグルコセノンへの選択性は50%程度しかないという課題がある。したがって、レボグルコセノンの水添改質についても、クラッキングに対する活性が低い触媒の開発を行う予定である。 本研究で開発する方法は、レボグルコセノンおよびジヒドロレボグルコセノンを効率的に製造するものである。しかしながら、今年度の研究で実施したそれらの生産規模は高々数グラムをつくるものでしかなかった。そこで、上記の触媒開発を行った後には、数百~千グラム/日の規模で両物質を製造する装置を作り、本研究の意義を深めるあるいはアイデアを実証するための研究を行う。加えて、これまでの実験では市販の結晶性セルロースを原料としていたが、現実的に原料となりうるより安価なセルロース、例えばバイオマスからリグニンとヘミセルロースを除去して作るパルプなどを原料とする実験も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
差額が生じた最も大きな原因は、当初備品として計上していたマイクロンフィーダー(約120万円)を現有の設備で代替できることが判明し、購入しなかったためである。また、国際学会への参加も十分な成果を発表できるように次年度に変更した。一方、申請予算の減額があり、加えてGC/MSやHPLCの修理費用など想定を超えるその他の出費があったため、次年度への繰越金額は約64万円となった。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越予算の大半は、5月に開催されるInternational Symposium on Green Chemistry (France)への参加および成果発表に費やす予定である。次年度の研究で使用する熱分解・改質装置は当初の予定よりも規模を大きくするため、周囲物品・薬品(特に触媒調製のためのイオン液体)にも計画より多くの費用が必要となる。
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