黒鉛を一層にしたグラフェンは高比表面積、高電気伝導率などの特性から電極、触媒担体、分子篩膜への応用が期待されている。これらの特性を劇的に向上する唯一の方法は、構造制御された欠陥を高密度で導入することである。特に、5、7員環、官能基などの欠陥を導入するためには、原料本来の分子構造を崩さずに脱水素反応を進行させることが必須となる。そこで本研究では、5、7員環を含むアズレンや窒素を含む芳香族化合物を原料とし、脱水素反応のみを利用することにより原料の分子構造を維持した状態でグラフェンを合成することを試み、これらを電子顕微鏡、種々の分光分析で解析した。また、この欠陥状態を解析するには単に分光分析を行うだけでは判断が困難なため、密度汎関数法によるX線光電子分光分析(XPS)スペクトルのシミュレーションを行った。透過型電子顕微鏡の結果から5-7員環を含むグラフェンは、低温合成を行うことにより6員環のみの一般的なグラフェンとは異なるグラフェンを合成することができた。このグラフェンに6員環以外の環が含まれていることは、ラマン分光分析やTEM、C1s XPSスペクトルの結果より明らかとなった。続いて、グラフェンに5、7員環を導入し、その濃度を変化させたグラフェンのXPSによる構造解析を計算により行った。スペクトルの半値幅や、ピークトップの位置を解析することによって、5、7員環の密度を推定できることがわかった。含窒素グラフェンに関しては、構造の異なる芳香化合物を原料として用い、473-873Kで加熱し、原料の骨格構造を破壊することなく脱水素反応を進行させグラフェンの合成を試みた。数種の原料を比較したところ、フェナジンを原料としたグラフェンのN1sスペクトルの半値幅が1.5 eVと一番狭く、1種類に近い含窒素官能基が導入できた。つまり構造制御されたグラフェンを合成できた。
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