本研究では、分子の立体構造と分子間相互作用を協奏的に利用した設計戦略に基づき、親水性および疎水性ユニットの集積構造形態を巧みに制御し、高効率な化学-電気エネルギー変換を実現する新規な含へテロ芳香族系高分子電解質膜の創製を目指している。その一環として本年度は、高い平面構造と強いS-S相互作用を有するチアゾロチアゾール(TT)骨格をフェニルエーテルスルホンから成る疎水部へ導入した一連のTTポリマー群を構築することに成功した。このTTポリマー群は、昨年度開発したベンゾチアジアゾール(BT)ポリマー群と同様に、強力なヘテロ原子間相互作用に起因して、高い耐熱性と化学的安定性を示し、親水部と疎水部が明瞭に相分離した集積構造を与え、さらに親水部のドメインを増大させることを見出した。またこの構造化に起因して、TT型電解質膜は、高温・広湿度条件において、BTポリマー群よりも良好なプロトン伝導性を示し、低い活性化エネルギーでプロトン輸送が進行することを明らかにした。以上のことから、S-S相互作用を有するTT骨格は、優れたプロトン伝導チャンネルを有する電解質膜の作成に有用なユニットであることを提示した。また上記の研究に加えて、前年度に開発した自己集合型有機フレームークを基に、無機酸(塩酸及びホスホン酸)の吸着挙動を用いた新規プロトン伝導体の構築に成功した。このフレームワークは、従来の酸吸着型ポリベンズイミダゾールとは異なり、様々な無機酸を高密度かつタイトに吸着することを見出し、高温・広湿度条件において、優れたプロトン伝導性を示すことが分かった。さらに、ホスホン酸を吸着させたプロトン伝導体では、140度の高温度条件でも作動することができる無加湿プロトン伝導チャンネルとして機能することを明らかにし、すなわち、有機フレームワークのプロトン輸送は、吸着する無機酸によって、劇的に変調できることを提示した。
|