研究課題
ナノ粒子によるがんへの薬物送達やイメージングは一定の成果を上げている一方で、組織の固い腫瘍では粒子が内部まで浸透することができず、十分な効果が得られないことも少なくない。本研究では、癌細胞を三次元培養することによってスフェロイドを作製し、これをモデル腫瘍組織として用いてナノ粒子の浸透性を評価した。これにより、ナノ粒子の送達効率を上げるための材料設計の指針を得ることを目指した。まず、胃がん細胞株MKN74をシリコーン製マイクロウェル上で三次元培養し、スフェロイドを作製した。モデル物質として蛍光標識されたヒアルロン酸(HA)を使用し、スフェロイド中への浸透挙動を共焦点顕微鏡で観察した。その結果、時間の経過に応じてHAが徐々にスフェロイド中へと浸透していく様子を観察することに成功した。さらに反応拡散方程式を用いた粒子浸透の数理モデルを構築し、これが実験結果と概ね一致することを確認した。以上で構築した評価系を使用し、白金系抗がん剤であるシスプラチン(CDDP)を内包したHA微粒子(HAナノゲル)の浸透挙動を評価した。これはHAにキレート配位子を修飾し、これとCDDPが結合することにより、HAが分子内/間で架橋することで作製されたナノ粒子である。ナノ粒子形成前後でのスフェロイド中の浸透挙動を比較したところ、粒子形成前の直鎖のポリマーは中まで浸透することが出来ず辺縁部に分布していたのに対し、HAナノゲルはスフェロイドの中心部まで浸透していることが明らかとなった。これは、直鎖のHAが架橋されてナノゲル化することで流体力学的半径が小さくなり、細胞間のECM中を拡散しやすくなったからだと考えられる。この結果は、同じ分子量の高分子キャリアを使用した場合でも、そのコンフォメーションによって腫瘍中への浸透性が大きく変わる可能性を示唆しており、粒子形状の制御の重要性を示すものだと言える。
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Nature Reviews Materials
巻: 1 ページ: (印刷中)
Bioconjugate Chemistry
巻: 27 ページ: 504-508
10.1021/acs.bioconjchem.5b00674