前年度は、小分子の1つである蛍光物質を野生型P450cam(WT)や活性ポケット付近に反応性官能基であるチオール基を有するP450cam変異体(3mD)にコンジュゲートし、その活性や構造変化の評価を行った。本年度は、大きさの異なる化合物を系統的にWTと3mDにコンジュゲートし、コンジュゲート前後の酵素活性と構造変化の関係を整理することにより、P450camのコンジュゲート体を作製する際の設計指針の獲得を試みた。作製した全てのコンジュゲート体に対して、活性体の割合と酵素活性残存率の相関関係を見ると、以下の事柄が明らかになった。(1) WTと3mDで比較を行うと、どの化合物をコンジュゲートしても、3mDのコンジュゲート体の方が活性体の割合と酵素活性残存率が低くなる傾向にあった。(2) 多くのコンジュゲート体で、不活性体の割合が増加することにより、コンジュゲート後の酵素活性が低下した。 (3) 高分子化合物であるポリエチレングリコールのコンジュゲート体や、蛍光物質と3mDのコンジュゲート体は、活性体の割合に比して酵素活性残存率の割合が低かった。これらのコンジュゲート体の基質存在下・酸化状態での紫外可視吸収スペクトルが、基質非結合状態と同一の吸収スペクトルであったことから、基質のアクセシビリティや結合低下により酵素活性の低下が起こったことが示唆された。 以上の知見は、分子認識により不可逆的にP450camの活性が変化する人工アロステリック酵素開発の重要な設計指針であり、この成果をまとめた論文を学術雑誌に投稿し掲載が確定した。
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