(研究目的) 生物圏のダークマターと呼ばれる環境中の難培養微生物の実態を明らかにするため、シングルセルから完全なゲノム情報を獲得する「シングルセルゲノミクス」が潮流となりつつある。本研究では、シングルセルゲノミクスの高精度化・ハイスループット化に向け、コンタミネーションリスクと増幅バイアスの最小化を実現した全ゲノム増幅法を開発することを目的とした。 (研究方法) 微生物シングルセルまたはそのDNAをピコリットル容量の微小液滴内に網羅的に封入し、全ゲノム増幅反応を同時多並行に行うことで、シングルセルゲノムに由来するシークエンスライブラリーを迅速に構築する手法を確立する。 (研究成果) 初年度には、ピコリットル容量の均質な反応場を作製するため、液滴形成に利用するオイル組成や表面改質剤の最適化を行い、液滴サイズの均一化と作製安定性を向上した。また、シングルセルゲノム増幅反応場生成のためのデバイス設計・開発を行い、微小液滴内へのシングルセル封入とゲノム増幅の条件検討を行った。全ゲノム増幅法にはMDA法を応用し、1分子DNAからのゲノム増幅とDNA結合蛍光色素による増幅産物の検出を可能とした。本手法を用いて、シングルセル由来の大腸菌DNA断片を微小液滴に封入し増幅を行った場合では、従来法と比べて増幅バイアスとコンタミネーションリスクが大幅に抑制される。この結果、シングルセルから高いゲノムカバレッジが得られることを実証した。最終年度に、2種の液滴を融合させる技術を開発し、シングルセルの液滴への封入、溶菌、全ゲノム増幅まで一連の行程を一貫して行うシステムを構築した。本システムにより、理論的に10万個以上のシングルセルを対象として同時多並行な全ゲノム増幅が可能となった。大腸菌をモデルとして1細胞由来の増幅産物の評価を行った結果、研究実施計画にて定めたゲノムカバレッジ80%以上を達成できた。
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